「そう・・・なの?みんな似合ってるし、桜もきれいだし、ちょっとビックリしたけどすっごく素敵」

遊佐と無月の間に腰を下ろしながら、ひなせがようやく笑顔を見せた。

「でもアレだよ、無月は昔はゼンゼン髪長くてさ。見た目変わって無いのオレと若ダンナだけだよ?」

「支癸は?」

「あー昔はもっとザンネンだった」

思わず支癸がむせる。

「天パがひどいクセに今よりロン毛でさ、むさ苦しいったらねーの」

「・・・テメェ憶えてろ」

「無月、髪のばしてたの?」

ひなせは右隣りに視線を傾げた。

「験担ぎみたいなものかな。大概の男は髪を後ろでひとつに結わいてね。鬱陶しがって伸ばさなかったのは、氷凪と遊佐ぐらいだった」

綺麗な面差しの無月に朱の陣羽織は派手かと思いきや、黒とのコントラストがかえってシャープな雰囲気を醸し出している。淡く微笑まれ、ひなせは思わず見とれてしまった。 

「お嬢、無月に惚れてもムダだよ。所詮、若ダンナを中心に世界が回ってる男だから」 
 
遊佐が尤もらしく肩を竦め、さすがの支癸も「そりゃ言える」と珍しく声を上げて笑った。

いつの間にか闇に包まれ、幾つもの篝火が辺り一帯を照らす。幽玄で優美な灯りが桜をより美しく、幻想的に映し出していた。

その出で立ちが思い出を誘うのか、四人が珍しく昔話を口にするのを、ひなせはほろ酔い加減で耳を傾ける。遊佐や無月に子供の頃を暴露され、氷凪が形無しの一幕もあった。

「さて・・・と。そろそろ行こうか」

「なあに?」

立ち上がった遊佐をほんのり蕩けた眼差しで見上げた彼女。

「お嬢しっかり見てな。これがオレ、夜見の遊佐だから」

いつもと変わらない笑顔で遊佐は気付かせなかった。柘榴色の眸で深く見つめた刹那も、これから始める己の幕引きも。