花見会の準備に手は足りているからと、ひなせと由伊だけ蚊帳の外に置かれていた。どうやら今年は庭の桜が主役ではなく離れで行うらしいが、見る花もないのに何故なのか不思議に思う。
夕方六時になったら来るよう遊佐に言い渡されていた二人は、ずい分と久しぶりに入り口の千本格子戸をくぐった。氷凪と顔を合わせるのもいつぶりか。灯篭に導かれ渡り廊下の角を曲がる。と。数寄屋造りのいつもの座敷はどこにもなかった。
天井の高い重厚で荘厳な、社のような舞台のような板の間の大広間。風情ある坪庭だったはずが、広間の数倍もある白石を敷き詰めた石庭に。そして見事なしだれ桜が一本、どっしりと構えて幻想的に咲き誇っているのだった。
「どこ・・・?ここ・・・」
ひなせは呆然として、やっとそれだけを言った。普段からあまり驚かない由伊でさえ、固まって視線が釘付けになっている。
「ハイハイ、説明してやるからこっち来な?」
「え・・・?」
声に振り返ったひなせが息を忘れる。お膳を前に胡坐をかいた四人の出で立ちは、遥か戦国時代にタイムスリップしたかのようで。
紫紺の袴に銀白の陣羽織姿の氷凪。無月は、黒の袴に朱色の陣羽織。遊佐と支癸は、革の手甲や脚絆を巻いた漆黒の忍び装束姿。それぞれ右肩と左腕に金糸で刺繍されていたのは、千鳳院家の家紋なのだった。
ひなせと由伊の目に鮮やかに焼き付く。これが父と彼らの在るべき姿と。
「お嬢達に一度見せておきたかった」
遊佐は屈託なく笑った。

