「案外悪くない気分だよ、桜と一緒に散るってのも」

「・・・・・・言ってる意味が解らねぇよ・・・」

「酔っ払いの戯れ言。・・・だからまあ、忘れてもいいけどねぇ」

口許に淡い笑みを滲ませ遊佐は、ほんの少し目を細めた。

「まだお嬢や若ダンナの傍にいたかった。傍にいればいつでも手を伸ばしてやれる、護ってやれる。・・・死ぬってのは、もうそれが出来ないってコトだよな。もう・・・何もしてやれないんだなオレは・・・」

未練に焦がされる。後悔など一つも無いのに。

死は歯痒いだけだ。意思とは無関係に断ち切られる命が、無念なだけだ。

「支癸」

「ああ?」

「後は頼むわ」

「・・・・・・ああ」

「おマエが居てくれて良かったよ」

さらりと言い流されたそれに支癸は一瞬目を見開き、杯に落とした眼差しを苦そうに歪めた。

感謝してる。と、そう聴こえた。500年の間で互いに一度も伝え合う必要の無かった言葉。

気配で、呼吸で。そんなものは訊かなくても肌で感じるから言わない。夜見は誰もがそうだった。目線ひとつで繋がる、信頼する。何かを残す時は終わる時だった。

遊佐が逝くことを今更のように実感して、思い知らされて。支癸は立て続けに杯を煽った。こみ上げて来るものを押し殺し、低く絞り出すように呟く。

「・・・お互い様だバーカ・・・」

「そうかい・・・」

遊佐は静かに応えただけだった。

隣で支癸の肩が微かに震えたのを、桜も闇夜も、誰も見ない振りで。独り天を仰ぐ遊佐の眦に滲んだ何か・・・も見ない振りで。