「今日は楽しかったよ二人ともっ! 明後日も楽しみにしてるね! またチャットするから~」

 電車で地元の駅に戻り、黒川さんとバス停で別れた。
 プリクラは三人で分け、俺の分は財布の中にしまっている。スマホにデータを送られているので、待ち受けにしようと思えばできる状態だが、さすがに恥ずかしすぎて無理。

 あとはデータの転送のついでに、黒川さんとチャットのIDを交換することになった。使う機会があるのかはわからないけど、友達一覧に女子の名前が増えて、何となく嬉しい。

 チャットアプリの友人一覧には、友達と呼んでいいのかわからないレベルの男子の名前もちらほらあるけれど、女子は由布ぐらいしかいなかった。最近になって熱海が増えて、そして今日、黒川さんの名前も加わった。

「ずっと持ってくれてありがとな」

 二人でマンションに向かって歩き出したところで、熱海に言う。

「ん? これのこと? これぐらい気にしなくていいのよ」

 彼女は俺が服を買ってからずっと、荷物を持ってくれているのだ。俺が片手しか使えないからということなんだけど、やっぱり申し訳なく思ってしまう。
 しかし熱海は口にした通り気にしていないようだった。むしろ、紙袋を前後に振って楽しそうにしている。

「あたしこそありがと、今日買い物に付き合ってくれて――あと、助けにきてくれて」

 熱海は俺とは視線を合わせず、足元の石ころをけりながら言った。

「俺は何もできなかったし、どちらかというと買い物に付き合ってくれたのは熱海たちだろ」

「んーん、そんなことない。陽菜乃も言っていたけど、有馬が来てくれて安心した。かっこよかったわよ」

 そう言って、彼女はこちらを見上げて笑う。目を細めた、くしゃりとした笑顔で。
 カーっと顔が熱くなるのを感じていると、熱海は苦笑してから俺の胸をひとつき。

「『ひょっとしてコイツ、俺のことを好きなんじゃないか』とか思わないでよ? わかってると思うけど、あたしは運命の人が一番なんだから――まぁアレよ、あんたは自分で卑下しているような、かっこ悪い男なんかじゃないって言いたかったの」

 そう言ってから、「うりうり」と言いながら俺の胸を指で押してくる。

「別に勘違いとかしてねぇよ。そういう褒め言葉に慣れてないだけだ」

 勘違いはしていない。ドキッとはしたけども。


☆☆ ☆ ☆ ☆


 本日も俺の母さんは熱海に夕食の依頼をしていたようで、彼女は俺の家に来てオムライスを作ってくれた。オムライスにはケチャップで『ありがとう』と書かれていて、後ろには小さくハート模様が描かれていた。

 反応したら熱海の思うつぼだと思ったのでスルーしていたのだけど、熱海が自ら『ほ、ほら、ハートがあったほうが可愛いでしょ!』と説明してくれた。俺に勘違いさせないために説明してくれたのだろう。

 閑話休題。

 熱海が帰宅して、帰宅した母さんと少しだけ話してから俺は自室のベッドで横になった。
 時刻は夜の十一時。
 明日はみな用事があるらしいので俺は家でのんびりする予定だが、明後日は再び熱海と黒川さんと遊ぶことになっている。場所は、俺の家。特に何をするでもなくだらだらと過ごす予定だ。
 熱海は頻繁に家に来るし、黒川さんがうちにくるのは初めてではないので、特に緊張はない。

 電気を消して目をつむると、デパートであったナンパ事件が思い浮かんだ。

「もっと強めに出たほうが良かったんだろうか」

 いやでも、穏便に済ませるという意味ではアレが最善だったと思いたい。
 俺が蓮みたいにカッコいい容姿をしていたら、あいつらもすぐ引き下がったかもしれないけど……やっぱり容姿って大事だよなぁ。
 だけど、

「俺がカッコいい……か」

 黒川さんも熱海も、俺のことをそう評価してくれた。容姿でない部分で、かっこよかったと。正直言ってとても嬉しい。気恥ずかしさはあるけど、嬉しい。

 負の感情を追いやって嬉しい感情が頭に満ちたところで、枕元に置いていたスマホが震えた。誰だろうかと思い手に取ってみると、差出人の欄には『黒川陽菜乃』の文字。
 黒川さん? こんな時間にどうしたんだろう。
 アプリを開いてみると、『まだ起きてるかな?』という疑問文が送られてきていた。

『起きてるよ。どうした?』

 そう返信をすると、三分ぐらいたってまたチャットが届く。

『あのね、今日はありがとうって言いたくて。知らない人に話しかけられてる時に、有馬くん来てくれたし、プリクラとかもすごく楽しかったからっ!』

『俺のほうこそ楽しかったよ。誘ってくれてありがとな。蓮は由布と旅行だし、黒川さんたちが誘ってくれなかったら、俺は一人でゴールデンウィークを過ごすところだったぞ』

『あははっ! 明後日も楽しみだね。えっとそれで、ひとつ相談というか、お願いなんだけど、聞いてくれる? 無理だったら忘れてくれていいからっ!』

『とりあえず聞いてみようか』

 黒川さんならそんな変な願い事をしないだろうと思いつつも、内心びくびくしながら聞き返す。すると、今度は五分ぐらい待って、

『今日撮ったプリクラ、スマートフォンの待ち受けにしたらダメかな? 今日、すごく楽しかったから、見ると楽しい気分になるのっ』

 そんなお願いが届いた。
 な、なるほど。俺と熱海と一緒に撮ったプリクラを、待ち受けに――か。

『他の人に見られたら変な誤解を生みそうだから、そこさえ気を付けてもらえれば……黒川さんもそうだし、熱海はほら、王子様の関係とかあるだろ?』

 男と映っているプリクラなんて、熱海は見られたくないだろうし。

『道夏ちゃんからもオッケーもらってるっ!』

『じゃあ大丈夫。あんまり変な表情をしてる奴は選ばないでくれると嬉しいです』

『ピエロスマイルのやつだよ~』

『よりによってそれかよ』

 俺がツッコむと、黒川さんは腹を抱えて笑う犬のスタンプを送ってきた。これはもう、黒川さんの中でこの画像にすることは確定してそうだな。ほかの人に見られないよう、注意してほしいもんだ。