この言葉を君に

「行ってきます」
 誰もいない家に挨拶をしてから学校に行く。
 一人暮らしを始めたいと言ったのは私だし別に不満なんてない。とかいうのは建前で本当は結構さみしい。

 誰にも何にも頼れない表面しかないヒト。
 それが高校一年生の私、矢崎響(やざきひびき)
 将来なんてちゃんと考えていなかったし、やりたいこともなかったから自分の頭の良さに合う高校を見つけて適当に決めた。
 見学なんてものも行かなかったから、そこの学校がどんなものかは分かっていなかった。そこからかな…。また人生が急展開しちゃったのは。
 私が今通っている高校は、いわゆる不良校だった。地元で名が通っている(らしい)人たちばっかりで、女子男子も簡単に人を蹴りあげている。
 もちろん、そんな中で友達なんかできるはずもなく毎日一人で過ごしていた。

 でも、ある日突然、いつものように一人でいた私を気にかけてくれるグループができた。

「はよ、響」
 会ったら絶対に挨拶をしてくれて、
「危ねえじゃん」
 私の近くで喧嘩が起こったら、大きい背中ですぐに守ってくれて、
「なんでこの学校来たの?」
 他の子みたいに威圧的な口調じゃなくて、
「ははっ、響らしいや」
 なんでも笑ってくれる。
 喧嘩のことを何も知らない素人から見ても、おそらくこのクラスで喧嘩が特に強い子達が集まったグループ。そしてそこの筆頭の子。その子が私のことをよく気にかけてくれる立原晴陽(たちはらはるひ)
 晴陽が私のことを気にかけてくれるようになってから、そのグループの子たちも、私と話したり喧嘩から守ってくれたりするようになった。

 この時からだったかな。いつもより夜が『孤独じゃない』ってちゃんと思えたのは。

 晴陽たちが気にかけてくれるようになったのは君と私が出会ってすぐだった。
 まるで君は幸福と笑顔を運ぶ、茶色い毛並みが綺麗なネコ。だから君の名前を、ラッキーとハッピーから取って『キラハ』って名付けたんだ。