君と過ごす最後の夏

ポン、ポン、とボールの音が体育館に響く。

「おー、今のいい感じ!」

美華は嬉しそうに声を上げた。
最初はぎこちなかった海鈴のパスも、少しずつ形になってきている。

「……ふぅ」

海鈴は一度ボールを抱え、小さく息をついた。
前髪が少しだけ額に張り付いている。

「疲れた?」

「……うん、思ってたより体力使うね」

「バレーはね、結構動くからね~!」

美華は笑いながら、自分の額を手で仰いだ。
体育館の中は、夏の終わりの熱気がこもっていて、少し動いただけでじんわり汗がにじむ。

「じゃあ、今日はこの辺にしとこっか」

美華が言うと、海鈴は少しだけホッとしたような表情を見せた。

「ありがとう。美華のおかげで、ちょっとだけバレーが分かった気がする」

「おっ、嬉しいこと言ってくれるじゃん!」

美華はニッと笑って、海鈴の肩を軽く叩いた。

「もしかして、バレー部に入る気になった?」

冗談めかしてそう尋ねると、海鈴は少し目を伏せた。

「……まだ分からない」

「そっか。でも、もし興味あったら、いつでもおいで!」

美華は明るく言って、ボールを倉庫へ戻すために歩き出す。

その背中を、海鈴はじっと見つめていた。

それは、美華には気づかれないほどの、一瞬のまなざしだった。