君と過ごす最後の夏

 放課後のバレー部の練習が終わり、体育館を出ると、空はすっかり茜色に染まっていた。
 遠くでセミが鳴いている。夏が、確かにここにあることを告げるように。

 「ねえ、詩音」

 帰り道、いつものように並んで歩いていた美華が、ぽつりとつぶやく。

 「今日の転校生、どんな人なのかな」

 詩音は少し驚いたように美華を見た。
 「気になるの?」
 「うーん、なんかさ……夏の途中で転校してくるって、ちょっと変わってない?」

 たいてい転校生がやってくるのは、春や学期の変わり目。
 けれど、夏休み前のこの時期に新しいクラスメイトが来るのは、確かに珍しい。

 「名前、なんて言うんだっけ?」
 「……姫宮海鈴、だったと思う」

 詩音は昼休みに先生が話していたことを思い出しながら答えた。
 「姫宮……なんかカッコいい名字!」
 「そう?」
 「うん!なんか由緒正しい感じじゃない?」

 美華はそう言って笑うけれど、頭の片隅には、昇降口で見かけた海鈴の姿がこびりついていた。
 ほんの一瞬だけだったけど、どこか空気が違う感じがした。
 何を考えているのか分からない、静かな雰囲気。
 転校してきたばかりだから、緊張していただけかもしれない。

 ――でも、何となく、気になった。

 自分でも理由は分からないけれど、明日になればきっとわかる。
 美華は、ゆるく結んでいたポニーテールをほどきながら、橙色の空を見上げた。