君と過ごす最後の夏

次の日。

授業が終わると同時に、美華のスマホが軽く震えた。
画面を見ると、海鈴からのメッセージだった。

「今日の放課後、少し時間ある?

何の用だろう? そう思いつつも、**「あるよ!」**と返すと、すぐにまた通知が来た。

**「じゃあ、昇降口で待ってる」**

なんだか少し、緊張する。

***

放課後、昇降口には海鈴がいた。
制服の袖を軽くまくり、風に揺れるシャツの裾がやけに爽やかに見える。

「美華」

「あ、うん!」

声をかけると、海鈴は少し笑って、まっすぐに美華を見つめた。

「……明日、空いてる?」

「え?」

「行きたい場所があるんだけど、一緒に来てほしくて」

「……もしかして、それって」

「うん。……デート、しよう」

言われた瞬間、美華の心臓が跳ねた。
海鈴は、あくまで自然な口調で言うから余計にドキドキする。

「え、えっと……どこに行くの?」

「夕日がきれいな公園があってさ。きっと美華、好きだと思う」

「夕日……」

思わず、その情景を思い浮かべる。
オレンジ色に染まる空、静かな風、二人だけの時間。

なんだか、すごく素敵な気がした。

「……うん、行く!」

そう答えると、海鈴は少し嬉しそうに微笑んだ。

「じゃあ、明日。楽しみにしてる」

軽く手を振って去っていく海鈴を見送りながら、美華は制服の胸元をぎゅっと握る。

**――これが、初デートなんだ。**

その実感に、嬉しさと緊張が入り混じった。