君と過ごす最後の夏

夕暮れの校舎。

美華は昇降口の前で立ち止まり、大きく息を吸った。
胸の奥がざわざわする。
それを振り払うように、スマホを取り出し、メッセージを送る。

**「ちょっと話したいことがあるんだけど、放課後、屋上に来てくれない?」**

送信ボタンを押した瞬間、心臓が跳ねた。
考えすぎないように、深呼吸をして足を踏み出す。

――自分の気持ちを、伝えなきゃ。

***

屋上には、すでに海鈴がいた。
フェンスにもたれかかり、遠くの空をぼんやりと眺めている。
オレンジ色の夕陽に照らされて、その横顔はどこか儚げだった。

「待たせちゃった?」

美華が声をかけると、海鈴はゆっくりと振り向いた。

「いや、今来たとこ」

そう言って、少しだけ笑う。
でも、その瞳はどこか不安そうだった。

「……で、話って?」

美華は拳をぎゅっと握りしめる。

**今なら、言える。**

「……私、ずっと考えてたんだ」

「……うん」

「海鈴のことをどう思ってるのか、ちゃんと自分の気持ちを確かめたくて……色々考えてみた」

海鈴は黙って、美華の言葉を待っている。

「……最初は、ただ気になる人だった。雰囲気も、言葉も、どこか掴めなくて、不思議な感じの人だなって」

「……」

「でも、一緒にいるうちに、どんどん気づいていったんだ。海鈴といると、すごく楽しくて、安心する。けど、それだけじゃなくて……」

美華は一度、息を呑む。

「海鈴が笑ってると、もっと笑わせたくなるし、落ち込んでると、何でもいいから力になりたいって思う」

静かな風が二人の間を吹き抜ける。

「……これが“好き”なんだって、やっと分かった」

そう言って、美華はまっすぐ海鈴を見た。

「……だから、私も、海鈴が好き」

夕陽に照らされた海鈴の目が、ゆっくりと見開かれる。

「……本当に?」

「うん。……私でよかったら、隣にいてもいい?」

海鈴は驚いたように、けれどすぐに、ふっと微笑んだ。

「……美華が隣にいてくれるなら、これ以上の幸せはないよ」

そう言って、そっと美華の頭を撫でる。

美華はその温もりに目を閉じた。

――この夏、私は本当の気持ちを知った。

それは、夕焼けよりもあたたかくて、優しくて――確かに、恋だった。