君と過ごす最後の夏

「……ここって……」

美華は目の前に広がる景色に、思わず息をのんだ。

どこまでも続く青い海、波打ち際で弾ける白い泡。
空は雲ひとつなく晴れ渡り、潮風が頬を撫でていく。

「美華、海って好きか?」

海鈴が隣でそう尋ねた。

「……うん、大好き」

「なら、よかった」

彼は少しだけ目を細めて波打ち際へと足を向ける。
美華もその後を追いかけ、サンダルを脱いで、波の感触を確かめるように足をつけた。

「冷たっ!」

「ははっ、ちょっと驚きすぎじゃね?」

「だって……!」

海の水は、思ったよりも冷たくて、でも心地よかった。
美華は波に向かって足を蹴り上げ、水しぶきを飛ばす。

「ほら、海鈴も!」

「お、おい……!」

言うが早いか、美華は海鈴の方へ水をかけた。

「やったな……!」

海鈴も負けじと水を蹴り返し、二人はまるで子どものようにはしゃいだ。

――こんなに楽しくて、幸せで、ずっとこの時間が続けばいいのに。

そんなことを思った。

「……連れてきてくれて、ありがとう」

ふと、そう口にすると、海鈴は少し驚いたように目を丸くした。

「どうした、急に?」

「なんとなく……すごく嬉しいなって思ったの」

「そっか」

海鈴は優しく微笑むと、美華の髪をくしゃっと撫でた。

「また来ような」

「……うん!」

海風が吹き抜ける中、美華の心は、まるで波のように揺れていた。