体育館の床に響くバレーボールの弾む音。
 夏の匂いを含んだ風が、開け放たれた窓から吹き込んでいた。

 「よっしゃー!ナイスレシーブ!」

 佐原美華の弾んだ声が、体育館に響く。
 汗を拭う暇もなく、すぐに次の動きへ。全身を使ってボールを追いかけるのが、美華にとって何よりも楽しい時間だった。

 「美華、今日も元気だね……」

 端でそっと見守っていた雨宮詩音が、小さく微笑む。
 美華とは対照的に、控えめで落ち着いた性格の彼女は、バレー部のマネージャーをしていた。

 「もちろん!バレーは楽しんだもん勝ちでしょ!」

 美華はボールを片手にくるりと回り、眩しい笑顔を向ける。
 詩音はそんな美華に小さくため息をついた。

 「でも、もうすぐ夏休みだし、少しは落ち着いたら?」

 「えー?なんで?むしろ夏こそ燃えるでしょ!だってさ!」

 言いかけて、美華はふと足を止めた。
 窓の外、校庭の向こうに見える教室棟。
 知らない制服を着たひとりの男子生徒が、担任に連れられて歩いていた。

 「……転校生?」

 ぽつりとつぶやいた美華に、詩音もつられるように視線を向けた。
 「夏の途中で転校してくるなんて、珍しいね」
 「ねー、どんな人なんだろ?」

 ただの興味。
 それが、あんなふうに心を揺らす出会いになるなんて。
 このときの美華は、まだ何も知らなかった。