君と過ごす最後の夏

「次、どこ行く?」

ショッピングモールを歩きながら、美華は海鈴の横顔をちらりと盗み見た。
さっきからずっと、この距離が気になって仕方がない。

(……変だな)

普通に話せてるのに、隣にいるだけで心臓が変な音を立てる。
これは何なんだろう。

「美華?」

「あっ、えっと……どこがいいかな?」

ぎこちなく言葉を返すと、海鈴はクスッと笑った。

「そろそろ休憩しない? カフェとか」

「あ、いいね!」

自然な返事ができたことに少しホッとする。
気を抜けば、また彼を意識してしまいそうだった。

二人で歩いてカフェに入り、窓際の席に座る。
オーダーを済ませ、しばらくの間、無言の時間が流れた。

「……ねえ、美華」

ふいに海鈴が口を開く。

「ん?」

「今日、誘ってくれて嬉しかった」

「え、そ、そう?」

「うん。だって、美華から誘ってくれるなんて珍しいし」

「あー……まあ、そうかも?」

美華は曖昧に笑いながら、ストローで飲み物をかき混ぜた。

(……私、やっぱり海鈴のことが気になってるんだ)

はっきりとそう思った。
今まで、ただのクラスメイトだったはずなのに、いつの間にか意識してしまっている。
それに気づいた瞬間、胸の奥がざわついた。

「ね、美華?」

「な、なに?」

「考えてくれた?」

ドキッとする。

「……考えてる、途中」

「そっか」

それ以上、海鈴は何も言わなかった。
けれど、優しく微笑むその顔が、どうしようもなく心に引っかかる。

(……もうちょっとだけ、この気持ちと向き合ってみよう)

美華はこっそりと、そう決意した。