君と過ごす最後の夏

約束の日。

夏の陽射しが眩しく降り注ぐ駅前で、美華はそわそわと落ち着かない気持ちで待っていた。
約束の時間まで、あと五分。

(こんなに緊張するなんて、私らしくないなぁ)

スマホの画面を開いては閉じ、深呼吸を繰り返す。
ただ友達と出かけるだけ——なのに、こんなに胸がざわつくのは、やっぱり海鈴の「告白」が頭のどこかにこびりついているからだろう。

──いつ、なにをきっかけに、どこを好きになったのか。

そう言ってくれた彼の言葉を思い出すたび、心がふわりと浮かび上がるような、くすぐったい気持ちになる。

(……私、どうしたいんだろ)

「お待たせ」

聞き慣れた、でもどこか特別に感じる声に、顔を上げる。

海鈴が、少しだけ息を切らせながら立っていた。
白のシャツに薄いブルーのデニム。
学校で見る彼とは違って、少しだけラフな雰囲気が新鮮だった。

「ううん、私も今来たとこ!」

そう言いながら、つい目を泳がせる。
こんなに直視するのが難しいなんて、いつからだろう。

「じゃあ、行こっか」

「あ、うん!」

少し歩くだけなのに、やけに意識してしまう自分に気づく。
海鈴と並ぶ肩の距離、歩幅の合わせ方、手の位置。
どれもこれも、昨日まで気にしたことなんてなかったのに。

「……美華?」

「へっ!? な、なに?」

「いや、なんかさっきからそわそわしてるから」

「えっ!? そんなことないよっ!」

慌てて否定するけれど、絶対バレてる。

「そ?」

海鈴は小さく笑って、ふっと前を向いた。
その横顔をこっそり盗み見て、胸の奥がまたざわつく。

(……やっぱり、考えなきゃ)

これはただの「ドキドキ」なのか、それとも——。

美華は、自分の心と向き合う覚悟を少しずつ決め始めていた。