「これは『たて穴住居』といって、地面を掘って屋根を付けた簡易的な家だよ」
教科書に載ってある三角形のワラの家を指差して、縄文くんは言った。
今日は、縄文時代。講師はもちろん、縄文くん。
「この時代はまだムラがなかったから、みんなで協力して暮らしていたんだ。猪や動物を狩ったり海で魚を取ったり・・・。と言ってもほとんど木の実だったけどね」
今と全く違う食文化に少し驚く。教科書の絵を見て感心してしまう。
「じゃあ、この『貝塚』っていうのは何だと思う?」
次に縄文くんが指差したのは、貝塚と呼ばれるもの。何だろう・・・貝を日干しにしている訳じゃなさそうだし・・・
「ゴミ箱?」
「正解!」
縄文くんは嬉しそうに笑った。
「食べ終わった貝のカラを捨てておく場所。僕の時から弥生中期まであったんだ。・・・まぁ、土器や人骨なども混じって発掘されることも多いけど」
「え?」
(今、人骨って言った?人間の・・・骨?)
縄文くんはそれについては答えず、次行くよーと言ってページをめくってしまった。
「僕がよく作っている素焼きの土人形『土偶』は食べ物がよく実ることを願って、まじないに使う道具・・・って言ってもきっとピンと来ないね。そうだ、今度一緒に作ろうか!僕が教えてあげる!!」
「良いの?」
まさか、土偶作りに誘われるとは思ってなくて、目をぱちくりさせる。
「うん。ほら、百閒は一見にしかずって言うでしょ?ちなみに、庭にたて穴住居も作る予定」
庭にたて穴住居・・・それは絶対に止めないと。流石に近所の人が驚く。
「流石にそれは、近所の人が驚いちゃうよ!?」
それから休憩を挟んで講師を弥生くんと交代して、弥生時代に突入。弥生くんは座学に人形劇も交えて教えてくれたので、頭にすんなり入ってきた。
「はぁ~・・・」
「光太郎くんとはあれから変わりなく?」
「うん。相変わらず、ほぼ会話がないよ」
昼休み。お昼ご飯のあとに廊下を歩いていた私と真依ちゃんは、周りに人がいないのを確認してコソコソと話し始めた。
「光太郎くんって、本当に人見知りなんだねぇ」
話の話題は、同居中の五人について。
特に最近は江戸くんの名前が出ることが多かった。
私含め十七人がひとつ屋根の下で暮らしているというのを聞いた時は、少しのことで動じない真依ちゃんでも卒倒しかけていた。
「他の人は、どちらかというとフレンドリーなんだけど・・・」
「じゃあやっぱり、問題なのは光太郎くんかぁ~」
真依ちゃんの言う通り、問題なのは私と江戸くん。
『仲良くなるには、少し時間を置いてみよう☆』
家を出る前、奈良さんからアドバイスをもらった。
『大丈夫大丈夫!気楽に行こうよ~』
飛鳥くんには何故か富士山の水彩画を貰った。
他のみんなも色々教えてくれた。
「真依ちゃん、ありがとう」
「うん。じゃあ私、日誌取りに行ってくるね」
「そっか、今日は真依ちゃんが日直だもんね」
そうして、真依ちゃんは職員室へ。
ひとりになった私は教室に戻ろうとしたんだけど・・・
「あ、桜木!丁度良いところにいた。これ、理科準備室まで運んでくれないか?」
重そうな段ボール箱を持った理科の小林先生に声をかけられて、足を止めた。
「よろしく頼むよ」
昼休みが終わるまではあと三十分くらい時間がある。
私は先生から段ボール箱を受け取ると、理科準備室に向けて足を運び出した。
『他の人は、どちらかというとフレンドリーなんだけど・・・』
『じゃあやっぱり、問題なのは光太郎くんかぁ~』
昼休み、騒がしくなった教室から逃げるように廊下を歩いていたら、偶然、女子の会話が耳に入ってきた。
とっさに曲がり角に隠れてしまったのは自分の人名が聞こえてきたから。
二人は、僕が近くにいることには、全く気付いていなかったと思う。
布団を被り直し、しっかり持つ。
本当は立ち聞きするつもりなんてなかったけど・・・何だか気になってしまった。僕の方から関わるなって突き放したのに・・・。
目を瞑れば、ここじゃない場所が目に浮かぶ。
『おい!変な黒船が浦賀にいるぞ!』
『何でも相手国は我が国の開国を求めている』
『でも、この条約は、あまりにも我が国に不利すぎます!』
『この時代を司る神よ、ご決断をお願いします』
『どうか、この国をお守り下さいませ・・・』
沢山の大名達の声。誰も彼も大切な人を守る為に命をかけてくれた。僕にとって大切な人は・・・・・・
『みんなの意見は分かった。でも・・・米国と貿易を開始します』
国民だから。
もしここで断れば侵略されてしまうだろう。僕もおいそれと国民の命を危険に晒す訳にはいかないからね、どうしても戦争だけは避けたい。
途端にざわめく大名達。
どうしてと。戦いましょうと。私は貴方様と戦いますと。でも、君達に少しでも長く平和と安寧を送れるのなら僕は、『関税自主権』が無かろうが『領事裁判権』を認めろなどの不平等条約だろうが構わない。
国民の命より守るものなんか無い。
まぁ『日米修好通商条約』を結んだことによって、明治くんがかなり荒れていた時は土下座して謝ったよ。
そんなことより、僕は話している二人を見る。
僕達と同居することになった桜木美桜とその友達。
っていうか、嫌われているかもしれない人と仲良くなりたいとか、どんだけお人好しな訳?そう思ったけど、まずは酷いことを言ったことについて謝らないと・・・。
丁度、桜木美桜が一人になって声をかけようとすると、理科の先生に段ボール箱を理科準備室に運ぶように頼まれていた。
重たいのか随分ふらついていて、
(何だか危なっかしい・・・)
そう思った瞬間、桜木美桜が何かにつまずいて転けそうになった。
「お・・・重い・・・」
先生から渡された段ボール箱は想像以上に重かった。
私は何とか持ち上げることが出来たが、すぐによろけてしまう。
(何入ってるの・・・これ?実験器具??)
気合を入れて歩きだすと、不意に何かにつまずいて・・・・・・
「えっ!」
転ぶ!と思った瞬間、体がふわりと軽くなった。
「何やってるのさ!」
後ろから唐突に、そんな声が聞こえてきた。
とっさに振り返ろうとしたら・・・すぐ傍のガラス窓に、江戸くんの腕にすっぽりと包まる自分の姿が映ってビックリ!
バサリと、いつも被っていた布団が落ち、江戸くんの顔が見えた。
(え、え、何で?)
訳が分からない私はプチパニック。
「怪我とか・・・していない?」
「え、うん・・・大丈夫・・・」
心臓は全然大丈夫じゃないけど。
驚き過ぎて声まで裏返っちゃったし。心臓はドクドクと合唱みたいに鳴り響いてる。
そっと下に降ろされた。
「こんなに重い物、持てないでしょ・・・貸して」
「え?」
不意にそう言った江戸くんは、私が抱えていた段ボール箱を持ち、スタスタと言ってしまった。
私は落ちている布団を拾い、遠くの方にいる江戸くんを追いかけた。
教科書に載ってある三角形のワラの家を指差して、縄文くんは言った。
今日は、縄文時代。講師はもちろん、縄文くん。
「この時代はまだムラがなかったから、みんなで協力して暮らしていたんだ。猪や動物を狩ったり海で魚を取ったり・・・。と言ってもほとんど木の実だったけどね」
今と全く違う食文化に少し驚く。教科書の絵を見て感心してしまう。
「じゃあ、この『貝塚』っていうのは何だと思う?」
次に縄文くんが指差したのは、貝塚と呼ばれるもの。何だろう・・・貝を日干しにしている訳じゃなさそうだし・・・
「ゴミ箱?」
「正解!」
縄文くんは嬉しそうに笑った。
「食べ終わった貝のカラを捨てておく場所。僕の時から弥生中期まであったんだ。・・・まぁ、土器や人骨なども混じって発掘されることも多いけど」
「え?」
(今、人骨って言った?人間の・・・骨?)
縄文くんはそれについては答えず、次行くよーと言ってページをめくってしまった。
「僕がよく作っている素焼きの土人形『土偶』は食べ物がよく実ることを願って、まじないに使う道具・・・って言ってもきっとピンと来ないね。そうだ、今度一緒に作ろうか!僕が教えてあげる!!」
「良いの?」
まさか、土偶作りに誘われるとは思ってなくて、目をぱちくりさせる。
「うん。ほら、百閒は一見にしかずって言うでしょ?ちなみに、庭にたて穴住居も作る予定」
庭にたて穴住居・・・それは絶対に止めないと。流石に近所の人が驚く。
「流石にそれは、近所の人が驚いちゃうよ!?」
それから休憩を挟んで講師を弥生くんと交代して、弥生時代に突入。弥生くんは座学に人形劇も交えて教えてくれたので、頭にすんなり入ってきた。
「はぁ~・・・」
「光太郎くんとはあれから変わりなく?」
「うん。相変わらず、ほぼ会話がないよ」
昼休み。お昼ご飯のあとに廊下を歩いていた私と真依ちゃんは、周りに人がいないのを確認してコソコソと話し始めた。
「光太郎くんって、本当に人見知りなんだねぇ」
話の話題は、同居中の五人について。
特に最近は江戸くんの名前が出ることが多かった。
私含め十七人がひとつ屋根の下で暮らしているというのを聞いた時は、少しのことで動じない真依ちゃんでも卒倒しかけていた。
「他の人は、どちらかというとフレンドリーなんだけど・・・」
「じゃあやっぱり、問題なのは光太郎くんかぁ~」
真依ちゃんの言う通り、問題なのは私と江戸くん。
『仲良くなるには、少し時間を置いてみよう☆』
家を出る前、奈良さんからアドバイスをもらった。
『大丈夫大丈夫!気楽に行こうよ~』
飛鳥くんには何故か富士山の水彩画を貰った。
他のみんなも色々教えてくれた。
「真依ちゃん、ありがとう」
「うん。じゃあ私、日誌取りに行ってくるね」
「そっか、今日は真依ちゃんが日直だもんね」
そうして、真依ちゃんは職員室へ。
ひとりになった私は教室に戻ろうとしたんだけど・・・
「あ、桜木!丁度良いところにいた。これ、理科準備室まで運んでくれないか?」
重そうな段ボール箱を持った理科の小林先生に声をかけられて、足を止めた。
「よろしく頼むよ」
昼休みが終わるまではあと三十分くらい時間がある。
私は先生から段ボール箱を受け取ると、理科準備室に向けて足を運び出した。
『他の人は、どちらかというとフレンドリーなんだけど・・・』
『じゃあやっぱり、問題なのは光太郎くんかぁ~』
昼休み、騒がしくなった教室から逃げるように廊下を歩いていたら、偶然、女子の会話が耳に入ってきた。
とっさに曲がり角に隠れてしまったのは自分の人名が聞こえてきたから。
二人は、僕が近くにいることには、全く気付いていなかったと思う。
布団を被り直し、しっかり持つ。
本当は立ち聞きするつもりなんてなかったけど・・・何だか気になってしまった。僕の方から関わるなって突き放したのに・・・。
目を瞑れば、ここじゃない場所が目に浮かぶ。
『おい!変な黒船が浦賀にいるぞ!』
『何でも相手国は我が国の開国を求めている』
『でも、この条約は、あまりにも我が国に不利すぎます!』
『この時代を司る神よ、ご決断をお願いします』
『どうか、この国をお守り下さいませ・・・』
沢山の大名達の声。誰も彼も大切な人を守る為に命をかけてくれた。僕にとって大切な人は・・・・・・
『みんなの意見は分かった。でも・・・米国と貿易を開始します』
国民だから。
もしここで断れば侵略されてしまうだろう。僕もおいそれと国民の命を危険に晒す訳にはいかないからね、どうしても戦争だけは避けたい。
途端にざわめく大名達。
どうしてと。戦いましょうと。私は貴方様と戦いますと。でも、君達に少しでも長く平和と安寧を送れるのなら僕は、『関税自主権』が無かろうが『領事裁判権』を認めろなどの不平等条約だろうが構わない。
国民の命より守るものなんか無い。
まぁ『日米修好通商条約』を結んだことによって、明治くんがかなり荒れていた時は土下座して謝ったよ。
そんなことより、僕は話している二人を見る。
僕達と同居することになった桜木美桜とその友達。
っていうか、嫌われているかもしれない人と仲良くなりたいとか、どんだけお人好しな訳?そう思ったけど、まずは酷いことを言ったことについて謝らないと・・・。
丁度、桜木美桜が一人になって声をかけようとすると、理科の先生に段ボール箱を理科準備室に運ぶように頼まれていた。
重たいのか随分ふらついていて、
(何だか危なっかしい・・・)
そう思った瞬間、桜木美桜が何かにつまずいて転けそうになった。
「お・・・重い・・・」
先生から渡された段ボール箱は想像以上に重かった。
私は何とか持ち上げることが出来たが、すぐによろけてしまう。
(何入ってるの・・・これ?実験器具??)
気合を入れて歩きだすと、不意に何かにつまずいて・・・・・・
「えっ!」
転ぶ!と思った瞬間、体がふわりと軽くなった。
「何やってるのさ!」
後ろから唐突に、そんな声が聞こえてきた。
とっさに振り返ろうとしたら・・・すぐ傍のガラス窓に、江戸くんの腕にすっぽりと包まる自分の姿が映ってビックリ!
バサリと、いつも被っていた布団が落ち、江戸くんの顔が見えた。
(え、え、何で?)
訳が分からない私はプチパニック。
「怪我とか・・・していない?」
「え、うん・・・大丈夫・・・」
心臓は全然大丈夫じゃないけど。
驚き過ぎて声まで裏返っちゃったし。心臓はドクドクと合唱みたいに鳴り響いてる。
そっと下に降ろされた。
「こんなに重い物、持てないでしょ・・・貸して」
「え?」
不意にそう言った江戸くんは、私が抱えていた段ボール箱を持ち、スタスタと言ってしまった。
私は落ちている布団を拾い、遠くの方にいる江戸くんを追いかけた。



