私たちにピリオドはいらない

「宇佐見ってなんでここに通ってんの?」
「そこはどうかノーコメントでお願いします」
「じゃあ、なんで今はそういう格好してんの?」

 今日もピアスはじゃらじゃらだ。正直、こっちのほうがきちんと自分をプロデュースできているような気がする。どっちかといえば学校バージョンの宇佐見よりはそれなりにちゃんと雰囲気もあるけど。

「プライベートでは、好きなようにと言いますか」
「学校でもそうしてたらいいのに」
「学校!? 無理だよ、人に見せるようなもんじゃないっていうか」
「なにそれ。じゃあなんで今は見せてんのよ」
「これは……たまには役立つこともあって」

 ごにょごにょと言うものだから呆れる。顔がいいかはわからないけど、姿勢はいいんだからもっと堂々としていればいいのに。
 そもそも大量のピアスが役立つってどういう状況?
 ほかのお客さんも宇佐見を怖がってる人もいることは伝えたほうがいいんだろうか。何気に営業妨害ですけど。その自覚はあるのか。

「ほかの店は気になんないの?」
「え? うーん、ここがいいかな。よくわからないし」

 だから、なんでよくわからないところに通ってんだ。
 そのとき、店内が一瞬活気づいた。桃瀬ちゃんの登場だ。さすがの宇佐見も気になるのか、少し首を伸ばしていた。どうやら推しを見つけたらしい。
 桃瀬ちゃんが登場すれば、しばらく店内も人が落ち着くだろう。暇になりそうなタイミングを見計らってビラ配りへと向かう。誰が担当するかは決まっていないけど、手が空いてる人は暗黙の了解だ。これからの時間はほとんどが桃瀬ちゃん目当てのお客ばかりだから、私が一時間程度いなくてもお店が困ることはない。
 お店の衣装のまま大きな通りに出たところまではよかったけど──

「ねえ、俺のことご主人様って呼んでよ」

 ノリのきつい若者集団がやってきた。この場合はひたすら無視するに限る。ビラ配りをさっさと終わらせればいい。

「おい、だるいってそれ」「呼ぶぐらいよくね?」「動画撮って」

 うざ。こっちがだるい。何を対象にして見下してるのか知らないけど、こういう人たちは人数が多ければ多いほど調子に乗る。
 あまりにも酷くなってきたら路地裏にでも連れ出して一発二発殴ればいい。これぐらい多分余裕だ。

「ねえ、ちょっと話でも──」
「仕事の邪魔したらだめですよ」

 とりあえず無視を決め込んでいるところに、誰かが入ってきた。私を庇うように立つのは、お店にいたはずの宇佐見だ。

「営業妨害です。やめてください」
「うわ、冷めるって。ちょ、やばくね?」

 宇佐見の発言に、悪ノリ集団の嘲笑が広がっていく。それでも宇佐見は臆することなく「盗撮なら消してもらっていいですか」と果敢に挑もうとする。
 だんだん周囲に人が集まり始める。これはいろいろとまずい。なにかって、私がお店の衣装を着てるところとか。すぐにお店を特定されるだろうし、クレームとか入って迷惑もかけたくない。

「いいよ、宇佐見。行こ」
「え、でも」
「いいから」

 その場から離れるようにすれば集団も途中までついてきていたけど、飽きたのかターゲットを乗り換えていた。でも宇佐見はついてきていた。

「もうついてこなくていいよ」
「いや、また変なのに絡まれてたらと思って」
「余計なお世話だし、そもそもなんでここにいんの?」
「佐山さんがなかなか戻ってこなくて。もう帰ったのかなって」
「……仕事してますけど」

 そもそも、私が帰ったからお店から出てきたのか。だとしたら変に懐かれてるんだけど。


「佐山さん、ああいうの多かったりする?」
「たまに。でもよくあることだし、いつも一人でどうにかしてきてるから」

 あれぐらいなんてことはない。衣装を着てなかったら楽勝だ。

「……その、危なくない?」
「は?」
「いや、だって佐山さん女の子なんだし。あんな大人数で絡まれたら大変っていうか」
「まさか私のこと心配してんの?」

 うそだ、ありえない。今まで心配されるよりも、怯えられるほうが多かった。むしろ問題を起こすんじゃないかって思われてきたような人生だ。
 宇佐見だって普段の私を知らないわけじゃない。それなのに「女の子」とか軽々しく言ってくるってことは、何か裏でもあんの?
 もしかして何か壮大なドッキリでもかけられてたりするのか。

「心配するよ。佐山さん、普通に可愛いから」
「……いやいや、私そういうこと言われるようなキャラじゃないし」
「でも、こういう衣装を着るのは好きなんだよね? よく似合ってるし」

 ……なんだよ、こいつ。やばいじゃん。私が知ってる宇佐見は地味で、空気みたいで、教室の端っこにいるような男だ。こんなような言葉をいう人間じゃない。
 道行く人が去っていく。その中に、同じような衣装に身を包んだコンカフェのキャストを見かける。

「……可愛い格好とか、昔からしてみたかった」
「え?」
「聞いてきたでしょ、なんであそこで働いてるのかって」

 私があそこで働く理由は、たったそれだけだ。可愛い格好をすることを義務付けられていることが何よりも重要だった。