「なんでこんなとこにいんの」
「なんでって……気になって?」

 コンカフェに興味を持った? だとしたらこの辺りにもいくつかお店はあったはず。なんでよりによって私のバイト先だったのか。

「佐山さんこそ、どうしてこのお店で働いてるの?」
「関係ないでしょ」

 そんなもの聞いてどうするんだよ。
 なんのために高校から離れた場所を選んだのか。そもそもこのお店だって、同じ学校の人間とは会うことなんてこの二年間、一度もなかった。

「もう店には来ないで」
「え……いや、それは」
「なに?」
「……困る、うん、困るっていうか」
「この近くにも同じような店はあるんだから、そっちに行ってくれって言ってんの」
「ここじゃないと困るんだよ」

 強めに言ったら帰ると思ったのに、融通が効かない。頑固なところを発揮されても困る。
 黙っていれば「ごめん」と宇佐見は謝った。謝るぐらいなら別の店に行けばいいのに。

「なんでここじゃないと困んの?」
「いや……それは、言えないっていうか」
「はあ?」

 だめだ、話してるとイライラしてくる。いつもだったらさっさと殴って「二度と来るな」で終わらせてしまえば簡単だ。
 でも、お店に迷惑はかけたくない。誰かに駆け付けられても、今度は宇佐見が捕まる可能性もなくはない。
 ……めんどくさ。

「……わかった。とりあえず今日の分はいれば」
「え、いいの?」
「次回以降に関しては、……ちょっと考える」

 考えたってろくな案は思い浮かぶはずもないのに。問題を先延ばしにしただけだ。
 お店に戻った宇佐見は、大人しく着席していた。スマホを取り出したらすぐにでも没収しようかと思っていたが、そういった仕草は今のところ見かけない。
 興味深そうに店内を見渡し、冷めきったオムライスを食べ始めた。その間も、目当ての店員でもいるのか、ホールに出ている女の子たちをしきりにチェックしていたけど、興味がなくなったのか、それからは客席のほうばかりを見ていた。

「ののかぜさん、大丈夫でした?」

 声をかけられて振り返ると、同じ衣装ではありながら色違いのターコイズブルーに身を綴んだ桃瀬ちゃんがいた。ちなみに私は茶色とピンクという普段なら決して選ばないような色をメンバーカラーとしている。

「大丈夫って?」
「あそこに座ってるお客さんと何かあったのかなと思って」

 鋭い。さすがに宇佐見と一緒に店を出るわけにもいかず、時間をずらして出たつもりだったが桃瀬ちゃんには見抜かれていたらしい。
 私よりも一つ年下で守ってあげたくなるような可愛らしい子で、店での人気もダントツに高い。

「あ、ううん。ちょっと知り合いに似てたから話してただけ」

 似てたどころか張本人だったけど。

「それならいいんですけど……ほら、最近って怖いお客さんも多いじゃないですか」
「桃瀬ちゃんこそ、先週だっけ? 出禁になった人がこの近くをうろついてるって話してたでしょ」
「うーん、見間違いかもしれないんですけどね」

 ほとんどのお客は問題ない。ただ店での空間を楽しんでくれる人ばかりだけど。
 たまに、粘着質なタイプの客にあたってしまうと、プライベートでつきまとわれるという事も少なくはない。

「まあ、何かされたってわけではないんですけどね。ちょっとしつこかっただけで」

 やたらと桃瀬ちゃんの連絡先と彼氏が気になっているお客だったから、店長が出禁にしたところまではよかったけど。そのお客に似た人の目撃がちらほらとあがってくる。

「私じゃ頼りないかもしれないけど、何かあったら言ってね」

 おそらく、私ならその男をボコボコにして警察に突き出すところまではできる。そのまま一生、この近くをうろつかないように忠告することも。
 桃瀬ちゃんがお客に呼ばれたことで、再び視線は宇佐見に戻った。相変わらずチビチビとオムライスを食べているだけで、ほかに不審な点はなさそう。逆に問題でも起こしてくれたら出禁にすることができるのに。
 一度だけ目が合ったけど、気まずかったのか、はたまた関わりたくと思われたからか、勢いよく目を逸らされた。いい加減にしろ。