冬休みのある日、私は図書館にいた。

受験勉強に集中するために来たはずなのに、ふとした瞬間に颯真の言葉が思い出されて、ページをめくる手が止まる。

「お前といると楽しい?」

「なら、それで十分だ」

彼はあんなにも真っ直ぐに言葉をくれたのに、私はまだ答えを出せないまま。

── どうしてこんなに悩むんだろう。

そんなことを考えながら、ペンを握る手を止めたその時。

「おーい、美琴!」

不意に、図書館の静寂を破るような声が響いた。

「ちょっ……颯真!?」

振り向くと、入り口の方で私に向かって手を振る颯真がいた。

「お前、やっぱここにいたかー!探したぞ!」

彼は周りの視線も気にせず、ズカズカと私の席に近づいてきた。

「ちょっと、図書館では静かに……!」

「はいはい、悪ぃ悪ぃ」

そう言いながらも、全然反省している様子はない。

「で?何してんの?」

「見てわかるでしょ、勉強……」

「ふーん……」

颯真は私の机の上を覗き込むと、難しそうな参考書を見て眉をひそめた。

「お前さ、たまには息抜きしねぇと体に悪いぞ?」

「別に、私は大丈夫……」

「うそつけ、顔色悪ぃし、肩ガチガチじゃねぇか」

「え?」

気づけば、颯真の手が私の肩に触れた。指先で軽く押されると、思ったよりも痛くて、思わず「うっ」と声が漏れた。

「ほらな。だから、今からちょっと付き合え」

「えっ、どこに……?」

「いいから、いいから!」

そう言って、颯真は私の腕を引いた。

「ちょ、ちょっと待って、荷物……!」

慌てて本を片付けながら、私は彼に連れられて図書館を後にした。