「なあ、俺の秘密、教えてやろうか?」

颯真が急にそんなことを言い出した。

「秘密?」

「実は、俺、昔めっちゃ勉強できたんだよ」

「……え?」

「小学生の頃は、クラスで一番頭良かったんだぜ?全国模試で県内トップ10に入ったこともある」

「嘘でしょ!?」

「ホントだって。でも、ある日、バカバカしくなったんだよな」

「なんで……?」

颯真は、少し遠くを見つめた。

「親がさ、勉強しか認めてくれなかったんだよ。
 テストで100点取るたびに、『偉いね』って言われて、90点以下だと『何やってるの』って責められる。
 最初は頑張ってたけど、そのうち疲れちゃった」

「……」

「それで、勉強やめて、好きなことやることにした。サッカーとか、バイクとか。
 そしたら親も諦めて、何も言わなくなった」

「……そうだったんだ」

「ま、今さら勉強するのも悪くねぇなって、お前と会って思ったけど」

「……あんた」

彼の言葉を聞いて、胸がぎゅっと締めつけられる。

「私もさ……実は、勉強以外のことで、認められたことないんだ」

ぽつりと、そう言った。

「だから、勉強し続けるしかない。何かを頑張らないと、私は……」

「俺もお前も、似たようなもんだな」

颯真が、ふっと笑った。

「でもさ、桜井。俺は今のお前の方が好きだぜ」

「……っ!」

不意打ちすぎて、顔が熱くなる。

「さ、送ってやるよ。もう暗いしな」

そう言って、颯真は私の隣に並んだ。

いつも自由奔放で、チャラチャラしてるくせに、時々こうやって真剣な顔をするから、ズルい。

気づけば、彼の存在が、私の中でどんどん大きくなっていた——。

---