図書室の一角、私は机に向かって勉強していた。

あいつも、一応、隣の席にいる。

「なあ、そろそろ休憩しない?」

「ダメ。あと10問解いてから」

「えぇ~……」

机に突っ伏しながら、彼は不満そうに唸る。

「桜井ってさ、何でそんなに勉強ばっかしてんの?」

「何でって……。良い大学に入るため」

「それだけ?」

「……それだけじゃないけど」

「ふーん」

颯真はじっと私の横顔を見つめてきた。

「な、何?」

「いや、前より表情柔らかくなったなって思って」

「そんなことない……!」

「あるって。前はガチガチに固まってたもんな」

「うるさい、勉強に集中して!」

「はいはい、お嬢様」

彼はそう言って笑った。

ほんの数週間前までは、全く話したことのない存在だったのに。

こんなふうに、からかわれたり、笑ったりする関係になるなんて——自分でも不思議だった。

---