遊園地を出ると、冷たい冬の風が頬を撫でた。

白い息が夜の街に溶けていく。

「寒いな」

颯真が呟きながら、自分のポケットに手を突っ込んだ。

「……手、貸せよ」

「え?」

「いいから」

彼は私の手を取り、自分のポケットに押し込んだ。

「ちょ、ちょっと!? さすがにこれは……!」

「寒いだろ? 俺の手、温かいし」

たしかに、彼の手は驚くほど温かかった。

だけど、それ以上にこの距離感が近すぎて心臓が落ち着かない。

「……恥ずかしい」

「なんで? カップルなら普通だろ」

「私たち、カップルじゃ……」

「……じゃあ、そうなる?」

「……え?」

不意に、彼の声が真剣になった。

「俺、ずっとお前のこと好きだけど。待つって言ったけど、待つのって結構つらいんだよな」

彼の言葉が、静かに心に染み込む。

「無理に答え出せとは言わねぇけど……お前は、どうしたい?」

私は、彼の瞳をじっと見つめた。

── どうしたい?

ずっと考えていた。彼の気持ちに応えられるのか、私は本当に彼を好きなのか。

でも、こうして彼と一緒にいると、心が落ち着く。楽しい。

そして、何より——。

「……たぶん」

「ん?」

「たぶん、私はもうとっくに、颯真に惹かれてるんだと思う」

小さな声で告げると、彼は目を見開き、そして少し照れくさそうに笑った。

「……じゃあ、もう答えは決まってるよな?」

彼はそっと、私の髪を撫でた。

「……うん」

夜の街灯の下、ふたつの影がゆっくりと寄り添っていた——。