——静かな図書館に、ページをめくる音だけが響いていた。

「……相変わらず、ここにいるんだな」

突然、目の前に影が差す。

顔を上げると、そこには校内でも有名な問題児である「一ノ瀬颯真/いちのせ そうま」が立っていた。

制服のネクタイはゆるく、シャツのボタンは開けっ放し。

手にはサッカーボールを持っていて、彼がここに似つかわしくないことが一目でわかる。

「またサボり?」私は冷めた目で聞いた。

「いや、先生に言われたんだよ。図書委員のお前に、俺の勉強を見てやれって」

「……は?」

信じられない。生徒会長であり、成績トップの私「桜井 美琴/さくらい みこと」**が、

校内一の不良の勉強を見ろって?冗談でしょ?

「俺、マジでピンチなんだよ。赤点あと一つで補習確定だし」

「自業自得じゃない?」

「そう言うなって。お前、どうせ暇だろ?」

暇じゃない。でも、ため息をつきながら私は席を立った。

「仕方ないな……。でも、ちゃんとやるならね」

「はいはい、お嬢様の言うとおりにしますよ」

——こうして、私と彼の“交差”が始まった。

最初は、全く合わない二人だった。

私が几帳面に説明すると、彼はすぐに飽きてあくびをする。

「ねぇ、もうちょっと真剣にやってよ」

「真剣に聞いてるって。ただ、桜井の説明、まじめすぎて眠くなるんだよな」

「……あんたがバカなだけでしょ?」

「おっ、毒舌」

ふざけた態度にイライラしつつも、私は根気強く教え続けた。

だけど、ある日——。

「お前ってさ、ほんとに勉強ばっかなんだな」

「……どういう意味?」

「たまにはさ、息抜きしろよ」

彼はそう言うと、私の手を引いた。

「えっ、ちょ、ちょっと!?」

「いいから!」

半ば強引に連れ出されたのは、校舎裏の広場。

そこにはサッカーボールが転がっていて、彼は器用にボールを蹴り上げる。

「ほら、お前もやってみろよ」

「無理、私スポーツなんて……!」

「じゃあ俺が教えてやる」

強引で、自由で、だけどどこか眩しくて。

勉強一筋だった私の世界に、彼は新しい風を吹き込んでいった。

そして、気づいたときには——。

「お前のこと、もっと知りたいって思ってる」

真剣な瞳で、彼はそう言った。

「……どうして?」

「お前といると、俺の知らなかった世界が広がる。お前は?」

そう言われた瞬間、胸の奥がざわついた。

「……私も、颯真のこと、もっと知りたい」

自分でも意外だった。勉強だけがすべてだった私が、彼の言葉に揺れている。

その日から、私たちは少しずつ変わっていった。