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 ベッドサイドのチェストの上で、スマートフォンが朝を告げる。
 あたたかな毛布の中から伸ばした腕が、早春のひんやりとした空気に晒されて意識が一気に浮上してくる。
 アラームを止め、名残惜しさを振り切ってベッドから起き上がると、春人は両腕を上に伸ばしてぐっと伸びをした。
 しっかりと閉めたカーテンを開けば、眩しくも美しい朝の光が部屋の中に飛び込んでくる。
 春先らしく気温は低いけれど、見上げた空は青く澄んでいた。出掛けるには良い日だ。


 春人は今日、夏樹の新居にお呼ばれをしている。
 夏樹には三年付き合っている二つ下の恋人がいて、今年の秋に結婚する予定だ。

 去年末に彼女との婚約を期に同棲を始める予定だったのだが、リンカネの思いがけない爆発的ヒットで夏樹の転居が大幅に遅れた。
 先月末になってようやく一区切りがつき、無事に引っ越しを済ませたところだったのだ。
 夏樹は普通に『新居に遊びに来いよ』と言ってくれたのだが、ここは真っ当な大人として結婚祝いと引っ越し祝いを兼ねて何か贈り物でももって行くべきだろう。春人はそう思って今日、それらの品を選んでから夏樹たちの新居にお邪魔する予定でいた。

 天気も良い、急がなければいけない締め切りもないとくれば、今日は思い切り買い物をして時間を浪費しても許されるだろう。
「……良い日になりそう」
 誰もいない部屋でひとりごちた言葉はしかし、柔らかな声色と共に朝の光にほどけて消えた。