「へぇ~! グッズのイラストとかも描いてるんだ~!オレああいうのってアニメのスタジオ?って言うの?ああいう会社の人が描いてると思ってたな。 今度お店行って探してみるね」
「あ、いえ……そんな、お気遣いなく…」
時刻は二十三時前。マカロンの小皿が空になって、グラスの中身もあと少しと言った頃。燈向は春人とゆっくりと会話を続けていた。
内容は主に仕事が七割、プライベートが三割と言ったところだ。
しかしそのプライベートの中でも家族や生い立ちと言った部分に話が向く事を、春人は恐らく無意識で回避しているように思う。
無意識が働くほど、最もプライベートな部分は触れられたくないと言うことは、恐らくそこが“春人が歪である理由”なのだろう。
これまでに生い立ちや家庭に難がある人間に山ほど会ってきたが、燈向が会ってきたのは、そこをあえてさらけ出し、触れられることで痛みを分かち合って欲しいと言うタイプか、匂わせる程度で触れてほしくないかのどちらかだった。
春人のようにまるで記憶に蓋をしているかのように頑なに過去を触れたがらない人間は初めてだった。
──面白い。 と言う表現は不謹慎だろうけれど、より深く興味をそそられたのは間違いない。
最寄り駅の終電時刻まであと三十分。この短い時間で、春人の無意識の警戒をどれだけ解く事ができるだろうか…… そんな事を考えていた、その時。
ドォォンッ──!!
大きな音がして、店内の酒瓶やグラスたちが僅かに震えて音をたてた。
しかし震えたのはグラスや酒瓶だけではなかった。目の前に座っていた春人もまた、轟音の音と共に肩を跳ねさせたのだ。
「………雷、かな?」
「………………」
「結構近くに落ちたのかな?ビックリしたね」
しん……と静まり返った店内に、燈向の声だけが響く。
店を開けている最中はあまり見ないようにしているスマートフォンを取り出してみると、ロック画面の通知欄に豪雨警戒のメッセージが届いていた。
