──ゴロゴロゴロ……
低い雷鳴が絶え間なく響く夜。遮光カーテンすら閉ざした窓の向こうで、ドオォォン! と雷が落ちる。
「……っ」
大粒の雨が乱暴に窓を叩く音はまるで怒声にも似ていて、この部屋の主でありたった一人の住人である青葉 春人は、ベッドに潜り込み頭まですっぽりと被った布団の中で更に身を小さくした。
二十七歳の成人男子が雷に怯えるなど、笑い話にもならないだろうが苦手なものは苦手なのだ。しょうがない。
こんな時は仕事に没頭できていたら良かったのだろうけれど、生憎と春人はイラストレーターで、その作業の大半をパソコンで行うものだから、雷と言う最低最悪の天候時にパソコンを起動させておくことなどできないのだ。
むしろキチンとシャットダウンをして、万が一停電が起きた時にデータが全て消えてしまわないようにコンセントも抜いておかなければならない。
そうなるといよいよ、春人はこの雷鳴の恐怖をただただ耐えるほかなくなってしまう。
「たすけて……」
誰に届くはずもない小さな懇願は、柔らかな暗闇に溶けて消える。
春人は心臓のあたりを服の上からぎゅっと握った。
そこにはいつも首から下げた古びた鍵があって、それは何も持たない春人にとって唯一の拠り所であった。
ぎゅっと固く閉ざした瞼の裏に、遠い遠い昔の思い出がよみがえる。
声はもう思い出せないけれど、秋の夕焼けの空に溶けるような赤い髪の少年は、思い出の中でいつも優しく春人に笑い掛けてくれるから……。
