「希空、おっはよー」

 「おはー」

 「優花、美波、おはよう」

 派手な赤色のリップを塗る優花と、鏡を見て前髪を整える美波に挨拶を交わす。
 ふたりはわたしと違って、明るくてかわいい一軍女子。それなのにどうしてわたしと仲良くしてくれるのか。
 答えは簡単。わたしを引き立て役にしたいからだ。きっとふたりともそう思っているのだろう。
 そう思うと、胸がチクッと痛んだ。

 「ねぇ、今日って数学のワーク提出だよね?」

 「え、マジ? あたしやってないわ」

 「ウチもー。終わった」

 美波が言う「終わった」という言葉は、この場合ワークが終わったという意味ではない。
 ワークが終わっていないため提出ができないから、やばいということ。
 ふたりが会話をしながらわたしを横目でチラチラと見てくる。

 「えっと、わたし終わってるから、ワーク見せようか?」

 いつもと同じように、わたしは数学のワークを渡す。
 ……これが、当たり前になってきている。
 普通は自分でやらなければいけないけれど、貸してくれる存在がいるから、ふたりはやらないのが当たり前になっている。
 何だか劇の台本みたいだ。いつも無理やり、ワークを渡すのがお決まりだから。

 「ありがとー、希空」

 「ほんと、希空って優等生だよねー。マジ助かるー」

 「ほんとほんと。希空と友達で良かったー」

 その言葉に、胸がモヤッとする。
 わたしが友達。そんなわけない。
 ふたりが友達だと思っているのは、わたしではなく、わたしの物だ。
 こうやってすぐわたしの機嫌を取って、今後もわたしのことを良いように使うのだろう。
 ふたりと友達をやめれば済む話だと、周りは思うかもしれない。
 でもそしたら、わたしはクラスでひとりになってしまう。それだけは避けたい。みんなから「かわいそう」だと思われるのが嫌だから。
 その途端、胃の中から何かが込み上げてくる。何だか酸っぱいものが口のなかに広がる。……気持ち悪い。

 「ねぇ、希空大丈夫ー? 何か顔色悪くない?」

 「えー、ほんとだー。保健室行ってくれば?」

 優花がわたしの顔を覗き込んでそう言った。美波はスマートフォンをいじりながら、そう言葉を返している。
 ……だめ。ここで逃げたら、逃げ癖がついちゃう。
 わたしはにこっと作り笑いを浮かべながら、首を振った。

 「大丈夫、ちょっと寝不足なだけ。心配してくらてありがとう」

 わたしの居場所は。
 家にも、学校にもない。どこにもない。
 わたしの羽を広げられる場所は、どこにあるのだろうか。