帰り道を歩きながら、ふと空を見上げた。
 ……結依とおばあちゃんは、わたしを見てくれているのかな。
 弱虫のわたしを見損なってる? それとも、少しは頑張ったねって褒めてくれてる?
 心のなかでそう問いかけても、答えはない。それがとてつもなくさみしかった。

 「ただいま」

 「あっ、希空、やっと帰ってきた」

 家に入った瞬間、何やらお母さんが慌ただしく玄関へ来た。
 何があったのだろうかと思いながら、わたしは靴を脱ぐ。

 「希空、最近帰り遅くない?」

 「え?」

 言われてからハッと気がつく。
 そういえば、自分が部活に入ったこと、家族に言うのを忘れていた。
 いままで帰宅部だったから帰りは早かったけれど、部活に入ったせいで帰りが遅くなってしまった。

 「あのね、わたし、小説研究部っていう部活に入ることにしたの」

 「え? 小説研究部? 何それ、お母さん聞いてないわよ」

 「ごめん、言うのが遅くなっちゃった。後輩の子が誘ってくれたんだ。文芸部みたいなもの」

 お母さんは呆れたようにはぁ、とため息を吐いた。

 「そんな部活に入って大丈夫なの? もう二年生なんだし、来年は受験の年なのよ。分かってる?」

 「……分かってるよ」

 「だったら、その時間を勉強に費やしたほうがいいと思うの」

 ……あぁ。また、説教タイムだ。
 お母さんの言うことは間違っていない。だけど子供の行動を制限していいとは思わない。
 猛烈な吐き気と目眩に襲われる。うっすらと聞こえるお母さんの声に、耳を塞ぎたくなる。

 「由空(ゆあ)、どうしたんだ。声を大きくして」

 「お父さん。あのね、希空が今更部活に入ったっていうのよ」

 わたしとお母さんの揉めている声が聞こえてきたのか、おじいちゃんが心配そうに会話に入ってきた。
 わたしは何も言えずに、俯く。

 「いいじゃないか。希空、何の部活に入ったんだい?」

 「……小説、研究部」

 「ほぉ、面白そうな部活だね。希空が入りたいと思って入った部活なんだから、おじいちゃんは反対しないよ」

 「おじいちゃん……」

 おじいちゃんの言葉に、わたしは涙腺が緩む。けれど泣きたくなかったから、唇を噛み締め、何とか堪えた。
 お母さんは納得してくれたのか、何も言わずにリビングに戻った。

 「おじいちゃん、ありがとう」

 「いやいや、礼など言ってくれるな。頑張れ、希空」

 わたしには、こんなに優しいおじいちゃんがいる。
 だからいつまでも甘えてしまって、わたしは弱虫のままなのかもしれない。
 そう思いながら、静かに自分の部屋へ行った。