中学三年生、五月。
 今から二年前に、親友を亡くした。
 名前は松岡 結依(まつおか ゆい)
 近所に住んでいて、小学校から仲が良かった。わたしとは正反対の性格で、喧嘩もしたけれど大好きな子だった。

 「のーあ、次移動教室だよっ! 一緒に行こう」

 「希空、聞いて聞いて! 前に言ってた先輩と付き合うことになったの!」

 「希空は可愛いよ、わたしが言うんだから間違いなし! だから自信持って!」

 明るくて、元気で、いつもわたしを引っ張ってくれて。
 そんな結依に、わたしは頼りっぱなしでいた。
 ……ある日。結依がわたしの家へ向かう途中、トラックに跳ねられて亡くなったと聞いた。
 その日はわたしが風邪で学校を休んでいて、結依はプリントを届けようとしてくれたらしい。
 ーー……わたしのせいで、結依は消えてしまった。

 わたしはその罪悪感がずっと残ったまま、中学は卒業した。
 そして高校に入り、やっと心機一転させて新しい生活ができると思ったとき。
 大好きだった祖母が、孤独死したと聞いた。もともと心臓が弱かったのが原因らしい。

 「希空ちゃん、おせんべいあるよ。食べる?」

 「希空ちゃん、いつも来てくれてありがとうねぇ」

 「どんなときもおばあちゃんは希空ちゃんの味方だよ」

 優しくて、いつもおばあちゃんは励ましてくれた。
 おばあちゃん家が少し遠いせいで、行くのが面倒になり、中学生になってからはあまり遊びに行かなかった。
 もしそばにいたら、おばあちゃんの体調の変化に気づいてあげられたのかな。入院になっても、亡くなることはなかったのかな。
 ーー……わたしのせいで、おばあちゃんは消えてしまった。

 わたしはまた、大切な人を亡くしてしまった。自分のせいで。
 そのときからずっと、消えてしまいたいと思っている。
 自分を痛めつけるのが、苦しむのが怖いから、実際にはできないけれど。

 そして思ったんだ。もう必要以上に、人と深く関わるのはやめよう、って。
 そうすれば、誰かが消えてしまってもこんなに悲しむことはないから。
 誰かを自分の手で傷つけることは、必ずないから。

 ……この気持ちを、本当は誰かに話したい。
 そしたら、少しだけ、気持ちが楽になるのかな。

 そんな小さな希望を抱きながら、わたしは大切な人を作らないと、決心した。