きみと見つけた物語

 藤崎くんと一緒に帰る流れになったのは嬉しいけれど、さっきから沈黙が続いたままだ。
 ……何を話せばいい? 藤崎くんが伝えたいことって何?
 緊張して、わたしは口が動かなかった。告白する寧音ちゃんは、もっと緊張しているのだろう。
 何か話そうと思ったとき、藤崎くんが「あの」と話し始めた。

 「今日、成功して良かったですね。みんなの本音も知ることができて、小説研究部を立ち上げて改めて良かったと思いました」

 「う、うん。そうだね。わたしも嬉しいよ」

 「……それで、僕ずっと、先輩に伝えたかったことがあったんです」

 藤崎くんはピタリと足を止めて、わたしの目をしっかり見つめる。
 その真剣な瞳に吸い込まれそうになった。

 「一番に僕のことを変えてくれたのは、先輩です。本のタイトル、気づきましたか? 先輩の漢字を工夫してタイトルにしたんです」

 「……うん、気づいたよ。嬉しかった」

 「僕、先輩のことが好きです」

 その瞬間、風がぴゅーっと吹く。
 暑い夏のはずなのに、気持ちの良いあたたかい風で。
 わたしは一瞬、時が止まったように思えた。

 「僕と付き合ってほしいです」

 藤崎くんはぺこっと頭を下げて、右手を差し出す。
 わたしは、一歩前に足を出した。

 「……名前」

 「え?」

 「名前、呼んでほしい。……悠くん」

 気がつくとわたしは、そんなことを口走っていた。
 藤崎くんは頭をガバッと上げる。耳まで真っ赤に染まっていた。
 わたしも同時に、恥ずかしさで胸がいっぱいになる。

 「希空先輩」

 初めて好きな人に呼ばれた名前は、特別な感じがした。
 今までよりも、自分の名前が好きになった気がする。
 わたしは深呼吸をし、口を開く。

 「わたしで良ければ、お願いします」

 「……っ、本当に? 本当に、夢じゃないですよね!?」

 「うん、夢じゃないよ」

 その瞬間、藤崎くんの腕のなかに引き寄せられた。
 ドクン、ドクンと心臓の鼓動が聞こえる。これはわたしの音なのか、藤崎くんの音なのか。
 恥ずかしさと幸せな気持ちで、ふわふわした気分になる。

 「ねぇ、先輩」

 「なに?」

 「人生って、物語みたいですよね」

 「……うん、わたしもそう思った」

 ふたりで見上げた空は、満月が出ていて。その月はとても煌めいていた。
 ……結依、おばあちゃん。そこから見守っていてね。

 大切な人を失ったからこそ、大切な人がいる日常は当たり前じゃないことに気づくことができた。
 だからわたしは、この一瞬の時を大切にしたい。

 きみが本当は誰かに言いたかったこと。
 これからも、聞かせて。

 きみと見つけた物語は、これからが始まりなんだ。