「せーんぱいっ」

 翌日の放課後。
 そう呼ばれて誰かと思ったら、昨日会った藤崎くんだった。
 ……そうだ。小説研究部だっけ。わたし、部活に勧誘されたんだった。
 きっと今日も部活に勧誘しに来たのだろう。藤崎くんにわざと聞こえるよう、はぁ、とため息を吐いてわたしは歩き出す。

 「えぇ、無視!? ちょっと、先輩! せんぱーい。聞こえてますー?」

 けれど、いくら歩いても藤崎くんはわたしの跡を追ってきた。
 ……この人に、無視する作戦は通じないのかもしれない。
 きっぱり断ろうと思い、足を止めた。

 「あ、先輩、やっと僕の目見てくれた」

 「藤崎くん。あのね、昨日も言ったけど、部活なんてやってる時間はーー」

 「今日は紹介したい人がいるんです!」

 人が話をしているというのに、藤崎くんは聞く耳も持たずに話を遮った。
 嬉しそうにニコニコしながら話す藤崎くんを見たら、わたしは何も言えなくなってしまう。

 「実は実は、小説研究部に新たなメンバーがふたりも加入しました!」

 「はじめまして。一年の椎橋 寧音(しいはし ねね)です」

 「二年の沢田 和真(さわだ かずま)です」

 「……はじめまして。東風、希空です……」

 椎橋さんはふんわりボブが特徴的で、可愛らしい雰囲気の子だった。
 沢田くんは眼鏡を掛けていて、おとなしそうな子。確か去年の期末テストのとき、トップを飾っていた優等生だった気がする。
 もうふたりも捕まえるなんて、藤崎くんもなかなか部活動に本気なのかもしれない。

 「先輩、お願いします。部活は四人必要なんですよ」

 「……とにかくわたしは、申し訳ないけど入れないの。違う人を探して。ごめんなさい」

 そう言って、わたしは駆け足で帰宅した。

 部屋に入って、ベッドに寝っ転がる。それからもずっと、藤崎くんたちのことが心に引っかかっていた。

 自分が本当は、小説研究部に興味があること。
 そのことを分かっているけれど、人と関わるのが怖い。また大切な人を失ってしまったら、今度こそ生きていけない。
 わたしは……素直になれない。ううん、なってはいけない。
 だから、我慢するしかないんだ。