当番が終わり、午後になった。わたしは鏡を見て、おろしていた髪を高い位置でまとめた。
 ……気合い入れすぎだって思われるかな。
 そんなことを考えて不安になりながらも、藤崎くんのいるクラスへ向かった。
 そのクラスの出し物は、【どうぶつカフェ】と書かれていた。
 かわいくていいな、と思いながら教室に足を踏み入れる。

 「いらっしゃいませ、何名様ですか?」

 「すみません、お客さんじゃなくて……。藤崎くんいますか?」

 「午前当番終わったので、いると思いますよ。藤崎くーん、お客さん来てるよ!」

 女の子はわたしに笑顔を向けて、藤崎くんを呼んでくれた。
 現れた藤崎くんの髪が、少しくしゃくしゃになっていた。
 急いで来てくれたのかな。

 「ごめんなさい、先輩! わざわざ来てくれて。一年の教室入るの嫌だったでしょ?」

 「大丈夫だよ。まぁちょっと緊張したけど。藤崎くんは前にわたしのクラス来てくれたし」

 「あはは、確かに」

 藤崎くんはそう言ったあと、わたしの髪に視線を落とす。

 「先輩、今日髪結んでるんですね」

 「え、う、うん。さっき結んだ……よ」

 だんだん、わたしの声が小さくなっていく。
 自信のなさが声に出てしまう。けれど藤崎くんは、にこっと笑ってくれた。

 「似合ってますよ!」

 「え……ありがとう」

 「僕が褒めるの、嫌でした?」

 藤崎くんはがっくりと肩を落とす。
 わたしがびっくりしてあまり喜ぶ態度を取らなかったせいで、勘違いさせてしまった。

 「ごめん、違うの。びっくりしただけだよ。すごく嬉しい」

 「……ほんとに?」

 「うん、もちろん。何でそんなこと気にするの?」

 自然と思ったことを口にした。
 すると藤崎くんは、いつもよりも真剣な表情になった気がした。
 わたしの胸がドクン、と高鳴る。
 ……何だろう。この緊張感は。
 雰囲気というか、何というか。それが普段と違う気がする。

 「ただ……ただ、気になっただけです! それより先輩。僕この前、会ってきましたよ。中学のときの人と」

 「え、もしかして藤崎くんが傷つけちゃったっていう人……?」

 「うん、そう」

 すごい。藤崎くんはちゃんと前に進んだんだ。
 わたしは感心する。

 「先輩みたいに、もう取り返せないわけじゃない。だから僕は、まだやり直せる。先輩にそう言われて勇気が出た。ありがとうございます」

 「ううん。わたしは何もしてないよ。藤崎くん、頑張ったね」

 「……うん、正直怖かった。でもそいつは、笑って言ったんです。俺こそごめん、って。小説家になる夢を応援してくれました。そいつの夢はゲーマーになることらしいです。だからお互い叶えようって約束しました」

 わたしのおかげだって言ってくれて、胸がほっこりする。
 少しでも藤崎くんに恩返しできたらと思っていたから、それが叶って嬉しかった。

 「部活、頑張りましょうね! 本も楽しみにしててください、すごく良いの作れましたから!」

 「……うん、頑張ろうね。楽しみにしてる」

 それからわたしたちは、文化祭のあちこちを見て回った。
 クレープを食べたり、オバケ屋敷に入ったり。
 藤崎くんと一緒だと、何をしていても楽しい。わたしには、そんな魔法が掛けられているのかもしれないと思った。