ミーン、ミーンと蝉の鳴き声があちこちから聞こえてきて、外に出るだけで汗がダラダラと垂れてくる。
 季節は梅雨が過ぎ、夏が来た。
 ついに文化祭前日になり、クラスは大盛り上がりだった。
 このクラスの出し物は写真の映えスポットに決定した。それは優花が提案し、高校生らしくて良いんじゃないかとみんなが賛成した。

 「楽しみだねー、文化祭」

 「それな! めっちゃ楽しみ!」

 「だね」

 今日は文化祭前日だから、授業もなく、文化祭の準備をするだけだった。
 わたしと優花と美波は、文化祭のことばかり話していた。

 「そうだ、聞いて聞いて! 昨日連絡したんだけど、中野先輩来てくれるんだってー!」

 「え、マジ? いいなぁ、あたしの彼氏も明日文化祭だから、来られないんだよね。一緒に回るの? 先輩と」

 優花は悲しそうにため息を吐く。
 そっか、優花の彼氏は他校の同い年らしいから、文化祭の日にちも被ってしまっているんだ。

 「うん、その予定だよー! あ、優花の彼氏来れないなら、希空と一緒に回るの?」

 優花と美波とわたしは午前が当番で、午後はフリー。
 確かにわたしはまだ、誰と一緒に文化祭を見て回るか決めていなかった。

 「んー、あたしはいいけど、希空は藤崎くんと回るんじゃないの?」

 「へっ!? な、何で!?」

 「いや、てっきり誘ってるのかと思ってた。その様子だと誘ってないなー?」

 「う、うん」

 藤崎くんを誘うなんて、そんな勇気わたしにはない。

 「えー、誘いなよー! 藤崎くんイケメンだから、彼女できちゃうかもしれないよ?」

 「それは、嫌だけど……」

 「でしょ! 希空かわいいんだから、自信持って!」

 優花と美波は、背中を押してくれた。
 どうしよう。このまま誰とも回らないのは嫌だけど、藤崎くんを誘うのも緊張する。
 ……でも、ふたりが言っていたように、藤崎くんに彼女ができてしまうのは嫌だ。もしそうなったら、どうして勇気を出さなかったんだろうってきっと後悔する。
 わたしは、拳をぎゅっと握りしめて、スマートフォンを開く。
 『悠』と書かれた連絡先をタップし、メッセージを打った。

 『藤崎くん。明日の文化祭って、いつ当番?』

 すると、すぐに既読が付いた。
 心臓がバクバクと鳴っているのが分かる。好きな人にメッセージを送るのって、こんなに緊張するんだ……。

 『僕は、午前中当番ですよー!』

 『わたしもなんだけどさ、良かったら一緒に回りませんか?』

 藤崎くんと、一緒に回りたい。
 その気持ちが、心から溢れ出てきた。

 『僕も誘おうと思ってました! 一緒に回りましょ!』

 その返事が来て、思わずスマートフォンを投げそうになってしまう。
 それくらい信じられなくて、嬉しかった。

 「良かったじゃん、おめでとう!」

 「これは告白チャンスだよ。頑張れ!」

 優花と美波が画面を覗き込み、自分のことのように嬉しそうにしている。
 わたしは「ありがとう」と答えた。
 ……告白、か。
 せっかくの文化祭、告白まではできないと思うけれど、少しだけ勇気を出してみようと思った。