「希空、またねー」

 「また明日」

 優花や美波はソフトテニス部に入っているけれど、わたしは帰宅部。
 放課後になると、二年生や三年生が部活動勧誘をしていた。
 帰宅部のわたしは勧誘されてしまったら面倒だと思い、小走りで昇降口に向かう。
 ーー……ふと、ひゅうっと冷たい風が吹いた。
 まるで何かがあると感じさせられるような、そんなふうに。

 「ねぇ!」

 振り返ると、知らない男の子がいた。
 わたしに話しかけているのだろうかと疑問に思いながらも、足を止める。

 「部活、入ってないんですか?」

 「え? はい……」

 「じゃあさ、僕と一緒に、小説研究部に入りませんか!」

 にこっと笑みを浮かべながら、男の子はそう言った。
 頭のなかにハテナマークがたくさん浮かぶ。
 小説、研究部……?
 この学校に、そんな部活動はなかったはずだけれど。

 「僕、高校に入学してから決めてたんだよね。絶対小説研究部を立ち上げようって。中学だと、部を作るのは禁止されてたからさ」

 「はぁ……」

 「あっ、自己紹介まだだったね。僕、四組の藤崎 悠(ふじさき ゆう)

 「……東風、希空です。ていうか、わたしも四組なんですけど」

 藤崎悠。
 そんな人、同じクラスにいただろうか。
 一応、クラスメイトの名前は覚えたはずだけれど。

 「え? 念のため聞くけど、一年生だよね?」

 「……わたし、二年、です」

 「えっ」

 しーん、とその場が凍りつく。
 少し予想していたことだけど、やっぱりこの子、一年生だったんだ。
 しばらくして状況が理解できたのか、わたしに頭を下げてきた。

 「す、すいませんっ。僕、勝手に同い年かと思っちゃって。まさか先輩だったなんて……」

 「……別に大丈夫。気にしないで」

 この学校、体操服の色は学年で違うけれど、制服だとみんな同じだから、確かに分からないのも無理はない。
 わたしはまた歩き出そうとすると、「待ってください!」と呼び止められる。

 「先輩、一緒に小説研究部、やりませんか? 僕、ずっと……夢だったので。お願いします!」

 「……悪いけど、わたし、時間がないの。だから部活なんてやってる暇はない。ごめんね」

 そう言って、わたしは走った。
 藤崎くんの悲しそうな顔が頭に焼き付いている。
 こうするしかない。だってもう、人と深く関わらないって決めたのだから。
 これでいい。そう思いながら、心の扉を閉ざした。