やっと授業が終わり、部室へ向かっている最中。
窓の外を眺めている、寧音ちゃんがいた。
どうしたのだろうと思い、わたしはそっと寧音ちゃんのそばへ近づいた。
「寧音ちゃん、何してるの?」
「わ!? 希空先輩!? びっくりした、驚かさないでくださいよ」
「ごめん、そんなつもりはなかったんだけど……ふふっ」
寧音ちゃんの反応がおもしろくて、つい笑ってしまう。
すると寧音ちゃんはふぅ、と一息吐いて、また外を眺めた。
「先輩、最近笑うようになってきましたよね」
「え、そうかな」
「はい。だって最初のときの顔と全然違いますよ。何て言うか……話しやすくなったと思います。明るくなった、っていうか」
そんな褒め言葉をもらって、わたしは照れてしまう。
自分ではそんなふうに思うことができないから、他人に評価されていることが嬉しく思った。
「いいな。わたしも、先輩みたいになりたい」
「……え」
寧音ちゃんはそう言って、はにかんだ。
『わたしを変えた出来事ではあったかもしれません』
その言葉が、頭のなかにフラッシュバックする。
小説研究部のみんなで出掛けたとき、こう言っていた。
「寧音ちゃん、話してほしい。わたしも少しは力になれると思う、から」
「……でも、話したら先輩も辛くなっちゃうかもしれませんよ」
「それでも、本当は誰かにずっと言いたかったことなんでしょ? ゆっくりでいいから、ね」
そう言うと、寧音ちゃんは少しだけ笑みを浮かべて、話し始めた。
「……わたし、中学のとき、吹奏楽部に入っていたんです。全国大会常連の強豪校でした。コンクールというものがあるんですけど、それに出るメンバーはオーディションで決めていました。すごく人数が多かったので」
寧音ちゃんが、中学校のとき吹奏楽部に入っていたなんて。
この話を初めて聞いたから、びっくりする。
わたしは、真剣に話を聞いていた。
「二年になって、わたしはコンクールメンバーに受かったんです。でも三年の先輩は落ちてしまった。それでも先輩は喜んでくれていたんです。絶対金賞取ってね……って」
「……うん」
「けれど結果は、支部大会銀賞。あっけなく終わりました。全国どころか、金賞ですら取れなかったんです」
聞いているだけでも、悔しくなる結果だ。
支部大会出場だけでもすごいけれど、全国大会を目指していた寧音ちゃんたちにとってはものすごく悔しかったのだろう。
「その瞬間、みんな言いました。これなら先輩が出れば良かったねって。全国に行けないなら、先輩が出て思い出にするほうが良かったねって。後悔していました」
寧音ちゃんは感情が抑えきれなくなったのか、窓をドン、と軽く叩く。
「頑張った結果がこれなんです!! あんなふうに言われるなら、最初からやらなければ良かった!! 何かに全力になるって、何かを頑張るって、こんなにも残酷なんだなって思いました!!」
寧音ちゃんはハァ、ハァと息切れしてしまっている。
パニックになっているのかもしれない。わたしは背中を優しく撫でながら、口を開いた。
「寧音ちゃんは、小説研究部のこと、どう思ってる?」
「は……? 小説、研究部のこと……?」
「うん、そう。どう思ってる?」
寧音ちゃんはしばらく考え込んでから、その問いに答えてくれた。
「好き、です。小説研究部のことはすごく」
「それが答えなんじゃないかな」
「え……?」
「部活に必死になることも、頑張ることも大切だと思う。でも寧音ちゃんは、何かを楽しむことが好きなんじゃないかな。だから、たかが部活だと思って、やりたいようにすればいいんだよ。小説研究部ってそういうものでしょ?」
小説研究部は、本を好きになることがまず目標だったから。
考えすぎずにやりたいように活動すればいいと思ったのが、わたしの意見。
寧音ちゃんは、静かに微笑んだ。
「やっぱり先輩は、すごいですね」
「そんなことないよ。わたしだって、前だったらこんな考え方できなかった。でも、みんなに出会ってから変わったんだよ」
「……ありがとう、ございます。わたし、小説研究部のことも、みんなで何かを楽しむことも好きなんですね」
寧音ちゃんは、笑顔でそう言った。
それは以前みたいなぎこちない笑顔ではなく、正真正銘の寧音ちゃんの笑顔だった。
わたしはつられて笑みをこぼす。
「わたし、寧音ちゃんと出会って良かったって思ってるよ。お互い、恋愛頑張ろうね」
「やっと認めたんですね。藤崎くんが好きだって」
「それを言うなら寧音ちゃんだって」
同時にぷっ、と噴き出す。
わたしたちは少しだけ、似た者同士なのかもしれないと思った。
窓の外を眺めている、寧音ちゃんがいた。
どうしたのだろうと思い、わたしはそっと寧音ちゃんのそばへ近づいた。
「寧音ちゃん、何してるの?」
「わ!? 希空先輩!? びっくりした、驚かさないでくださいよ」
「ごめん、そんなつもりはなかったんだけど……ふふっ」
寧音ちゃんの反応がおもしろくて、つい笑ってしまう。
すると寧音ちゃんはふぅ、と一息吐いて、また外を眺めた。
「先輩、最近笑うようになってきましたよね」
「え、そうかな」
「はい。だって最初のときの顔と全然違いますよ。何て言うか……話しやすくなったと思います。明るくなった、っていうか」
そんな褒め言葉をもらって、わたしは照れてしまう。
自分ではそんなふうに思うことができないから、他人に評価されていることが嬉しく思った。
「いいな。わたしも、先輩みたいになりたい」
「……え」
寧音ちゃんはそう言って、はにかんだ。
『わたしを変えた出来事ではあったかもしれません』
その言葉が、頭のなかにフラッシュバックする。
小説研究部のみんなで出掛けたとき、こう言っていた。
「寧音ちゃん、話してほしい。わたしも少しは力になれると思う、から」
「……でも、話したら先輩も辛くなっちゃうかもしれませんよ」
「それでも、本当は誰かにずっと言いたかったことなんでしょ? ゆっくりでいいから、ね」
そう言うと、寧音ちゃんは少しだけ笑みを浮かべて、話し始めた。
「……わたし、中学のとき、吹奏楽部に入っていたんです。全国大会常連の強豪校でした。コンクールというものがあるんですけど、それに出るメンバーはオーディションで決めていました。すごく人数が多かったので」
寧音ちゃんが、中学校のとき吹奏楽部に入っていたなんて。
この話を初めて聞いたから、びっくりする。
わたしは、真剣に話を聞いていた。
「二年になって、わたしはコンクールメンバーに受かったんです。でも三年の先輩は落ちてしまった。それでも先輩は喜んでくれていたんです。絶対金賞取ってね……って」
「……うん」
「けれど結果は、支部大会銀賞。あっけなく終わりました。全国どころか、金賞ですら取れなかったんです」
聞いているだけでも、悔しくなる結果だ。
支部大会出場だけでもすごいけれど、全国大会を目指していた寧音ちゃんたちにとってはものすごく悔しかったのだろう。
「その瞬間、みんな言いました。これなら先輩が出れば良かったねって。全国に行けないなら、先輩が出て思い出にするほうが良かったねって。後悔していました」
寧音ちゃんは感情が抑えきれなくなったのか、窓をドン、と軽く叩く。
「頑張った結果がこれなんです!! あんなふうに言われるなら、最初からやらなければ良かった!! 何かに全力になるって、何かを頑張るって、こんなにも残酷なんだなって思いました!!」
寧音ちゃんはハァ、ハァと息切れしてしまっている。
パニックになっているのかもしれない。わたしは背中を優しく撫でながら、口を開いた。
「寧音ちゃんは、小説研究部のこと、どう思ってる?」
「は……? 小説、研究部のこと……?」
「うん、そう。どう思ってる?」
寧音ちゃんはしばらく考え込んでから、その問いに答えてくれた。
「好き、です。小説研究部のことはすごく」
「それが答えなんじゃないかな」
「え……?」
「部活に必死になることも、頑張ることも大切だと思う。でも寧音ちゃんは、何かを楽しむことが好きなんじゃないかな。だから、たかが部活だと思って、やりたいようにすればいいんだよ。小説研究部ってそういうものでしょ?」
小説研究部は、本を好きになることがまず目標だったから。
考えすぎずにやりたいように活動すればいいと思ったのが、わたしの意見。
寧音ちゃんは、静かに微笑んだ。
「やっぱり先輩は、すごいですね」
「そんなことないよ。わたしだって、前だったらこんな考え方できなかった。でも、みんなに出会ってから変わったんだよ」
「……ありがとう、ございます。わたし、小説研究部のことも、みんなで何かを楽しむことも好きなんですね」
寧音ちゃんは、笑顔でそう言った。
それは以前みたいなぎこちない笑顔ではなく、正真正銘の寧音ちゃんの笑顔だった。
わたしはつられて笑みをこぼす。
「わたし、寧音ちゃんと出会って良かったって思ってるよ。お互い、恋愛頑張ろうね」
「やっと認めたんですね。藤崎くんが好きだって」
「それを言うなら寧音ちゃんだって」
同時にぷっ、と噴き出す。
わたしたちは少しだけ、似た者同士なのかもしれないと思った。



