教室のドアをガラガラッと開けると、優花と美波が珍しくわたしのところに駆け寄ってきた。
 いつもスマートフォンをやっていたり、ふたりで会話したりしているけれど、今日はどうしたのだろうか。
 ふたりは血相を変えて話し出す。

 「希空、大丈夫だった!?」

 「え……何が?」

 「何がって、あんたのおじいちゃんのことだよ! ウチも優花も昨日ずっと心配してたんだよ」

 え、と思わず言葉を発してしまう。
 ふたり、どうしてそのことを知っているのだろうか。
 わたし、部活のみんなにしか話していないのに。

 「ごめん、担任に聞いちゃったのー」

 「昨日の部活帰り、希空と先生が急いで走って行ったのみてさ。希空、顔すごく青かったし」

 なるほど、それで知っていたんだ。
 担任に聞いていたのなら仕方がない。
 わたしは「ありがとう」と答えた。

 「心配掛けたくなくて、ふたりには話さなかったんだ」

 「もう、そんなの気にしなくていいのにー」

 「まぁ、希空からしたらそう思うよね。でも頼ってほしい。深夜でも電話付き合うしさ」

 「そうそう、愚痴でも悩みでも何でも聞くよ!」

 炎が出てくるように、胸が熱くなった。
 ふたりがわたしのことを考えてくれていたなんて嬉しい。

 「うん、分かった。ありがとう」

 「あ、そういえばね。希空にお誘いの件があってさー」

 「お誘い?」

 「うん。実はね、中野先輩の友達が彼女募集してて、誰か紹介してほしいって言われたんだよね。でも優花は最近彼氏できたし、希空しかいないんだ」

 美波はまだ、例の中野先輩と付き合っているらしい。
 優花も最近彼氏ができたということで、喜んでいたのを思い出す。
 確かにこの状況は、わたししかいない。
 でもわたしは、正直乗り気じゃなかった。

 「希空、今大変そうだし、無理かな? 彼氏欲しいってわけじゃないよね、ごめん」

 「ううん、美波が誘ってくれたのはすごく嬉しいよ、ありがとう。でもごめんね。おじいちゃんのことは関係なしに、行けない」

 「え? 何か理由があるの?」

 美波が不思議そうにわたしの顔を覗き込む。
 ……これ以上、誤魔化すわけにはいかない。
 わたしは小さく咳払いをし、口を開いた。

 「あの、ね。好きな人ができたの」

 優花と美波は同時に「えー!!」と叫ぶ。
 わたしは慌ててふたりの口を塞ぐ。
 ……誰かに聞かれたら困る。

 「そうなの!? 誰!?」

 「いや、ひとりしかいなくない!?」

 「あ、そっか! 藤崎くんか!」

 今度はわたしが叫び声を上げそうになる。
 わたし、この話誰にもしていないのに。どうして分かったんだろう。

 「だって前あたしたちが紹介してって言ったとき、断ったでしょ?」

 「嘘バレバレだよ! 希空、そのときからもう好きだったんだねぇ」

 「……っ! そう、なのかな」

 そのときはまだ、好きという気持ちはなかったはず。
 でももうとっくに、ふたりに全部知られていたなんて。
 わたしは自分の気持ちに気づいていないだけで、あのときからずっと藤崎くんのことを想っているのかもしれない。
 途端に顔がカーッと熱くなる。

 「じゃあ、中野先輩の件は断っておくね! ウチ、希空の恋応援するから」

 「あたしも応援する! ファイト、希空」

 「……ありがとう、頑張る!」

 わたしたちは、スタートの区切りとして、ハイタッチをした。