家に帰って、わたしはすぐ小説研究部のみんなに連絡した。
藤崎くんは事情を知っているけれど、寧音ちゃんと沢田くんはわたしが早退した理由を知らないと思う。
もしかしたら心配してくれているかも、という淡い希望が胸にあった。
『今日は早退してごめんなさい。おじいちゃんが倒れちゃったみたいで。でも今は元気そうだから、心配しないで』
『そうだったんですね、お大事にしてください! 先輩いなくて寂しかったですよーっ』
『東風さんもあまり無理しないようにね。部活も無理に来なくても大丈夫だし。今はおじいさんの体調を優先に』
『えぇー、希空先輩いないと寂しいですー』
『椎橋さん、無茶言うな。その気持ちは分かるけど、東風さんも相当疲労が溜まってると思うし』
そんな会話が続いたあと、寧音ちゃんは怒った熊のスタンプを入れていた。
わたしはふたりのやり取りを見てクスッと笑ってしまう。
……みんな心配してくれていたんだ。嬉しいな。
『心配してくれてありがとう。まだエッセイ書き途中だから、明日から部活行くよ』
『本当ですか!? 嬉しい!』
『無理するなよ。な、藤崎』
『そうですね! 東風先輩の好きなようにするのが一番だと思うけど、無理だけは禁物ですからね!』
わたしは、ベッドに横になりながらふと思う。
今日わたしが冷静でいられたのは、藤崎くんがファミレスに連れ出してくれたからだ。
……わたし、何度も藤崎くんに救われているんだなぁ。
この恋が叶わないとしても、何か藤崎くんに恩返しができたらいいなと思う。
そんなことを考えていると、藤崎くんから着信があった。
「も、もしもし」
『あ、先輩? ごめんなさい、電話掛けちゃって。おじいさん、良かったですね』
「あ、う、うん。ありがとう。一週間くらいで退院なんだ」
そっか、おじいちゃんのことを心配してくれて、電話してくれたんだ。
藤崎くんと電話できることが、とても嬉しいと思った。
電話だとより一層藤崎くんの甘い声が耳に響いて、何だかこそばゆい。
『良かった。先輩、エッセイ書き終わりそう?』
「うん、何とか。結構力作ができるかも」
『えー! 楽しみだなぁ』
あ、しまった。自分で言っておいて、自分のハードルを上げてしまったかもしれない。
『希空、自信を持つことも大切だよ』
そのとき、おじいちゃんに言われた言葉をふと思い出した。
……自信を持つことも、大切だもんね。
「心配してくれてありがとう、藤崎くん。じゃあまたね」
『あ、待ってください!』
「え……なに?」
用件はそれだけではないのだろうか。
沈黙が続き、藤崎くんの吐息だけが聞こえる。何だか藤崎くんの緊張がわたしに伝わってきたような気がした。
『……先輩、文化祭が終わったら、部室で待っててほしいです』
「え、文化祭が終わったら?」
『何か予定、ありましたか……?』
藤崎くんの声がいつもより小声で弱々しく聞こえた。
わたしは慌てて「ないよ」と答える。
『ありがとうございます! じゃ、じゃあ、引き止めてすみませんでした。おやすみなさい』
「うん、おやすみ。また明日ね」
そう言って、わたしは電話を切った。
“文化祭が終わったら、部室で藤崎くんを待つ”
と、カレンダーに記入した。藤崎くんとの約束がひとつ増えて、嬉しかった。
藤崎くんは事情を知っているけれど、寧音ちゃんと沢田くんはわたしが早退した理由を知らないと思う。
もしかしたら心配してくれているかも、という淡い希望が胸にあった。
『今日は早退してごめんなさい。おじいちゃんが倒れちゃったみたいで。でも今は元気そうだから、心配しないで』
『そうだったんですね、お大事にしてください! 先輩いなくて寂しかったですよーっ』
『東風さんもあまり無理しないようにね。部活も無理に来なくても大丈夫だし。今はおじいさんの体調を優先に』
『えぇー、希空先輩いないと寂しいですー』
『椎橋さん、無茶言うな。その気持ちは分かるけど、東風さんも相当疲労が溜まってると思うし』
そんな会話が続いたあと、寧音ちゃんは怒った熊のスタンプを入れていた。
わたしはふたりのやり取りを見てクスッと笑ってしまう。
……みんな心配してくれていたんだ。嬉しいな。
『心配してくれてありがとう。まだエッセイ書き途中だから、明日から部活行くよ』
『本当ですか!? 嬉しい!』
『無理するなよ。な、藤崎』
『そうですね! 東風先輩の好きなようにするのが一番だと思うけど、無理だけは禁物ですからね!』
わたしは、ベッドに横になりながらふと思う。
今日わたしが冷静でいられたのは、藤崎くんがファミレスに連れ出してくれたからだ。
……わたし、何度も藤崎くんに救われているんだなぁ。
この恋が叶わないとしても、何か藤崎くんに恩返しができたらいいなと思う。
そんなことを考えていると、藤崎くんから着信があった。
「も、もしもし」
『あ、先輩? ごめんなさい、電話掛けちゃって。おじいさん、良かったですね』
「あ、う、うん。ありがとう。一週間くらいで退院なんだ」
そっか、おじいちゃんのことを心配してくれて、電話してくれたんだ。
藤崎くんと電話できることが、とても嬉しいと思った。
電話だとより一層藤崎くんの甘い声が耳に響いて、何だかこそばゆい。
『良かった。先輩、エッセイ書き終わりそう?』
「うん、何とか。結構力作ができるかも」
『えー! 楽しみだなぁ』
あ、しまった。自分で言っておいて、自分のハードルを上げてしまったかもしれない。
『希空、自信を持つことも大切だよ』
そのとき、おじいちゃんに言われた言葉をふと思い出した。
……自信を持つことも、大切だもんね。
「心配してくれてありがとう、藤崎くん。じゃあまたね」
『あ、待ってください!』
「え……なに?」
用件はそれだけではないのだろうか。
沈黙が続き、藤崎くんの吐息だけが聞こえる。何だか藤崎くんの緊張がわたしに伝わってきたような気がした。
『……先輩、文化祭が終わったら、部室で待っててほしいです』
「え、文化祭が終わったら?」
『何か予定、ありましたか……?』
藤崎くんの声がいつもより小声で弱々しく聞こえた。
わたしは慌てて「ないよ」と答える。
『ありがとうございます! じゃ、じゃあ、引き止めてすみませんでした。おやすみなさい』
「うん、おやすみ。また明日ね」
そう言って、わたしは電話を切った。
“文化祭が終わったら、部室で藤崎くんを待つ”
と、カレンダーに記入した。藤崎くんとの約束がひとつ増えて、嬉しかった。



