おじいちゃんは、ICU、すなわち集中治療室に入っていて、顔を見ることすらできなかった。
おじいちゃんの容態を聞いてきたお母さんは静かに涙を流していて、お父さんが慰めていた。
……おじいちゃん、まだ亡くなってはいない。まだ希望はある。
そう思いたいはずなのに、心の何処かで、もう諦めている自分がいた。
「……っ、おじいちゃん」
気づいたら、そう言葉にしていた。
わたし、おじいちゃんにアドバイスされた通り、自分の気持ちに正直になったよ。そのおかげで藤崎くんと仲直りできたし、優花や美波たちとも和解できたよ。
まだお礼を言っていない。おじいちゃんに伝えたいことが、まだまだたくさんあるのに。
……いなくなっちゃうなんて、絶対に嫌だ。結依やおばあちゃんのときのような気持ちを思い出したくない。
そのとき、スマートフォンの通知が鳴った。病院だから音を消そうと思って開いたとき、一件のメッセージが見えた。
『先輩、急用ができたって言って早退したけどどうしたんですか? 何かあったんですか?』
……藤崎くんだ。
わたしは震える指先で、ゆっくりと文字を打つ。
『じつは、おじいちゃんがたおれたの』
『え!? おじいさん、大丈夫ですか!?』
『わかんない。もうわたし、だめかも』
『その病院、なんて名前?』
『Nびょういん』
漢字に変換するのを忘れるくらい、無我夢中で藤崎くんに伝えていた。
きっと、わたしは誰かに気持ちを聞いてもらいたいんだ。
それにしても、病院の名前を聞いてどうするのだろうか。
お母さんたちが戻ってこないから、一時間ほど入り口付近で座って待っていると。
息を切らして、汗だくになった藤崎くんがいた。
「ふじ、さきくん?」
「東風先輩!」
わたし、夢を見ているのかな。
いくら誰かに助けを求めているからって、こんなこと現実になるはずがない。
好きな人が自分のピンチに駆けつけてくれるなんて。
「先輩、大丈夫ですか!? あーもう、目が乾いてる。絶対泣いたでしょ」
「どう、して、藤崎くんがここに」
「どうしてって、だって僕病院の名前聞いたじゃないですか。自転車すっ飛ばして来たんですよ」
本当に? これは、よくできている夢じゃないの?
藤崎くんがわたしのところに駆けつけてくれたことが、素直に嬉しかった。
「でも何で、来てくれたの?」
「そんなの、先輩が心配だからに決まってるじゃないですか!」
「わたしの、ためだけに?」
「そうですよ! もう!」
藤崎くんは照れているのか、顔を赤くした。
わたしのためだけに、一時間も自転車に乗って、ここまで来てくれたんだ。
好き。藤崎くんが、本当に好き。心からそう思った。
「それで、おじいさんは?」
「あ、うん……まだ、集中治療室」
「……そうですか。親御さんは?」
「それが、どこにいるか分からなくて……あっ」
ちょうど、お母さんとお父さんが戻ってきた。
そういえば、この状況、どう説明したらいいのだろう。
藤崎くんのことふたりは知らないだろうし。恋人だと勘違いされても困る。
「希空、ごめんね、お待たせ。その子は?」
「ううん、大丈夫。部活の後輩だよ」
「初めまして、藤崎悠といいます。僕もたまたま病院に来ていて、東風先輩にお会いしました。あの、少しの間東風先輩をお借りしてもよろしいですか?」
え、と声を出してしまう。
頭のなかがハテナマークでいっぱいになった。
するとお母さんたちは、にこっと笑った。
「分かった。じゃあお母さんたち、先に家に戻ってるわね」
「あまり遅くならないうちに帰るんだぞ。もうすぐ六時だし」
「それはそうね。あ、おじいちゃんはまだ手術をやっているみたい。何か連絡があったら希空にも連絡するから」
「ありがとうございます! 先輩、行きましょ!」
わたしは、藤崎くんの手に引かれ、走った。
おじいちゃんの容態を聞いてきたお母さんは静かに涙を流していて、お父さんが慰めていた。
……おじいちゃん、まだ亡くなってはいない。まだ希望はある。
そう思いたいはずなのに、心の何処かで、もう諦めている自分がいた。
「……っ、おじいちゃん」
気づいたら、そう言葉にしていた。
わたし、おじいちゃんにアドバイスされた通り、自分の気持ちに正直になったよ。そのおかげで藤崎くんと仲直りできたし、優花や美波たちとも和解できたよ。
まだお礼を言っていない。おじいちゃんに伝えたいことが、まだまだたくさんあるのに。
……いなくなっちゃうなんて、絶対に嫌だ。結依やおばあちゃんのときのような気持ちを思い出したくない。
そのとき、スマートフォンの通知が鳴った。病院だから音を消そうと思って開いたとき、一件のメッセージが見えた。
『先輩、急用ができたって言って早退したけどどうしたんですか? 何かあったんですか?』
……藤崎くんだ。
わたしは震える指先で、ゆっくりと文字を打つ。
『じつは、おじいちゃんがたおれたの』
『え!? おじいさん、大丈夫ですか!?』
『わかんない。もうわたし、だめかも』
『その病院、なんて名前?』
『Nびょういん』
漢字に変換するのを忘れるくらい、無我夢中で藤崎くんに伝えていた。
きっと、わたしは誰かに気持ちを聞いてもらいたいんだ。
それにしても、病院の名前を聞いてどうするのだろうか。
お母さんたちが戻ってこないから、一時間ほど入り口付近で座って待っていると。
息を切らして、汗だくになった藤崎くんがいた。
「ふじ、さきくん?」
「東風先輩!」
わたし、夢を見ているのかな。
いくら誰かに助けを求めているからって、こんなこと現実になるはずがない。
好きな人が自分のピンチに駆けつけてくれるなんて。
「先輩、大丈夫ですか!? あーもう、目が乾いてる。絶対泣いたでしょ」
「どう、して、藤崎くんがここに」
「どうしてって、だって僕病院の名前聞いたじゃないですか。自転車すっ飛ばして来たんですよ」
本当に? これは、よくできている夢じゃないの?
藤崎くんがわたしのところに駆けつけてくれたことが、素直に嬉しかった。
「でも何で、来てくれたの?」
「そんなの、先輩が心配だからに決まってるじゃないですか!」
「わたしの、ためだけに?」
「そうですよ! もう!」
藤崎くんは照れているのか、顔を赤くした。
わたしのためだけに、一時間も自転車に乗って、ここまで来てくれたんだ。
好き。藤崎くんが、本当に好き。心からそう思った。
「それで、おじいさんは?」
「あ、うん……まだ、集中治療室」
「……そうですか。親御さんは?」
「それが、どこにいるか分からなくて……あっ」
ちょうど、お母さんとお父さんが戻ってきた。
そういえば、この状況、どう説明したらいいのだろう。
藤崎くんのことふたりは知らないだろうし。恋人だと勘違いされても困る。
「希空、ごめんね、お待たせ。その子は?」
「ううん、大丈夫。部活の後輩だよ」
「初めまして、藤崎悠といいます。僕もたまたま病院に来ていて、東風先輩にお会いしました。あの、少しの間東風先輩をお借りしてもよろしいですか?」
え、と声を出してしまう。
頭のなかがハテナマークでいっぱいになった。
するとお母さんたちは、にこっと笑った。
「分かった。じゃあお母さんたち、先に家に戻ってるわね」
「あまり遅くならないうちに帰るんだぞ。もうすぐ六時だし」
「それはそうね。あ、おじいちゃんはまだ手術をやっているみたい。何か連絡があったら希空にも連絡するから」
「ありがとうございます! 先輩、行きましょ!」
わたしは、藤崎くんの手に引かれ、走った。



