六月に入り、紫陽花が美しく咲く季節になった。
 雨が降りそうなどんよりとした空気が、とても苦手。
 わたしは帰りのホームルームが終わってすぐ部活へ向かおうとすると、優花と美波に引き止められた。

 「ふたりとも、どうしたの?」

 「前にひどいこと言ったの、謝ろうと思って」

 「あたしも、希空に言いたいことがあって」

 『ウチは希空に、味方だって言ってほしかったな』
 前に美波に言われた言葉が、頭に蘇ってきた。
 そういえば、あの後美波に直接謝ってから、少し話すのがぎこちなくなっていた。
 きっと美波は、そのことがずっと気になっていたのだろう。
 優花の言いたいこととは、何だろうか。

 「希空、ごめん。ウチ、自分の気持ちばかり口走っちゃって……希空の気持ち全然考えてなかったんだ。本当に、ごめん」

 「ううん、大丈夫だよ。わたしこそ、曖昧でごめんね」

 「あたしも……ううん、あたしたち、前から思ってたんだ。希空はいつも何を考えているか分からないから、ちょっと仲間はずれにしてたところがあった。傷つけて、ごめん」

 ふたりは、頭を下げてきた。
 急な状況に、わたしは何て言ったらいいのか分からなくなった。

 「あの、頭、上げて」

 「だって、こうでもしないと許してもらえないかなって。あたしたち、中野先輩の件は話し合ったの。結局気持ちがすれ違ってただけだった」

 「そうそう、馬鹿みたいだよね。希空はウチらに挟まれて、いろいろ面倒くさかったよね。本当にごめん」

 わたしが知らないところで、ふたりは和解していた。
 ふたりは、何も分かってくれないわけじゃなかった。ちゃんとわたしの気持ちも考えてくれていた。
 安心したからか、涙がこぼれてしまった。

 「の、希空、泣くほど辛かった?」

 「ごめん、マジで」

 しょんぼりするふたりに、わたしは慌てて口を開く。

 「ち、違うの。……あのね。わたしの話、聞いてくれる?」

 そう言うと、ふたりは強く頷いてくれた。
 わたしは、親友を亡くしたこと、おばあちゃんを亡くしたこと、それによって大切な人を失うのが怖いことを話した。
 話を聞いてもらいたいと思っている自分に驚いた。

 「そうだったんだ……ふたりも大切な人を失うなんて、あたしには考えられない」

 「うん、そうだよ。ウチからしたら、優花と希空を亡くすってことだもん」

 「優花、美波……」

 ふたりはそっと、優しく抱きしめてくれた。
 薔薇のような甘い香水の香りがふわっと香る。

 「今までごめん。でもあたしは、いなくならないよ」

 「ウチも。図々しいお願いだけど、これからまた、親友になってほしい」

 「……もちろんだよ。ありがとう、ふたりとも」

 こんなに友達といるのが幸せだと思えたのは、小説研究部に出会えたから。藤崎くんを、好きになれたから。
 わたしは自分が成長できていることが、何よりも嬉しかった。