それからわたしたちは、デパートのお店を見たり、映画を観たりした。
 ふと空を見ると、日がだんだん沈んできていた。
 あっという間に時間が経っていて、藤崎くんと一緒にいると、時が経つのが早く感じた。

 「もうそろそろ夕方だね」

 「そうですね、そろそろ帰りますか?」

 「うん、そうしようか」

 太陽が、空にゆっくりと落ちていく。
 真っ赤に染まる太陽は、見惚れるほど綺麗で。
 この時を忘れてしまいそうだった。

 「……藤崎くん」

 「はい」

 わたしは、静かに口を開く。
 今日の目的は、ただふたりで出かけることじゃない。

 「藤崎くんの過去を、教えて」

 ーー藤崎くんは、視線を逸らした。
 思い出したくないと言っているように。

 チクタク、チクタク。時が進んでいくと同時に、藤崎くんは静かに話し始めた。。

 「僕、中学のとき、友達を傷つけて……その子は不登校になっちゃったんです」

 藤崎くんの瞳から、一瞬にして光が消えて。
 真っ暗闇に染まっているようだった。

 「僕は中学のときから小説が好きで、物語をノートに書いてました。それを、当時同じクラスだった友達に馬鹿にされました」

 「……うん」

 「お前が小説家なんかなれるわけないだろって言われて、腹が立ちました。だから……僕、言っちゃったんです。消えろよって」

 あぁ、きっとその言葉は、藤崎くんの本当の気持ちだったのだろう。
 好きなことを馬鹿にされたから、思わず“消えろ”と言ってしまったんだ。

 「そしたら、友達は不登校になって……通信高校に通ってるみたいですけど。……ずっと後悔してる。僕が思ったことを言わないで、僕が我慢していれば、誰も傷つかずに済んだのにって。僕のせいでそいつは、人生を無駄にして……」

 「違うよ。藤崎くんは、悪くない。最初に傷つけたのは、その友達でしょう?」

 「でも!! だからといって、僕も傷つけて良いわけじゃない!! ……言葉は、怖いんですよ。たった四文字で、人の人生を変えてしまった!」

 藤崎くんのひとつひとつの言葉が、そのまま胸に響いた。
 わたしは、何も言えなくなってしまった。
 藤崎くんは悪くない。悪いのはその友達だと、わたしは思う。
 でも、『言葉は怖い』という藤崎くんの言葉を聞いたら、わたしは自分の気持ちを言うことが恐怖となってしまった。

 「でも、藤崎くんがそんなに問い詰める必要は……」

 「違う、僕が全部悪いんだ!!」

 わたしはビクッ、と体を震わす。
 藤崎くんの大きな声に、びっくりしてしまった。
 藤崎くんはハッ、として手で口を抑えた。

 「ごめん、なさい……。ごめんなさい、ごめんなさい……!!」

 そう言って、藤崎くんは駆け出してしまう。
 わたしは藤崎くんの腕を掴む。

 「待って、藤崎くん!」

 「……お願い、離して……。これ以上一緒にいると、東風先輩まで傷つけちゃう」

 「……っ」

 優しく、藤崎くんの腕を離した。
 わたしは、背中が見えなくなるまで、走り去る藤崎くんを見つめていた。