「はぁ……」
「東風先輩、大丈夫ですか?」
部活の最中、ため息を吐いてしまった。
優花や美波のことで、今日一日中頭がいっぱいだから。
藤崎くんが心配そうに、顔を覗き込んでくる。
「うーん、大丈夫ではないかも」
「今日、何かあったんですか?」
「……うん。友達関係でちょっと。わたしは正解を選んだはずなんだけど、その子を傷つけちゃったんだ。難しいなぁって」
まただ。藤崎くんを前にすると、本音がポロリと出てしまう。
不思議な魔法を使っているのだろうか、なんておかしなことを考えていると。
「それは先輩が、正解を選ぼうとしてるからじゃないかな」
「え? わたしが?」
「はい。きっとその友達は、先輩の本音が聞きたかったんだと思うんです。でも先輩は思っていることを言わないで、正解だと思う答えを言った。それが間違いなんじゃない?」
今までモヤモヤしていた気持ちが、一気に晴れた。
そっか。美波は、悩んでいたことを優花ではなく、わたしに相談した。
それは、わたしがどう思うか、気になったから。わたしの本音が聞きたかったんだ。
間違えないように……って思っていたことが裏目にでてしまった。
「もちろん、先輩のその優しさはすごいと思いますよ。人を傷つけないように言葉を選ぶことは、大事ですから。でも、僕だったら相手の本音が聞きたいので」
「……すごいね。やっぱり藤崎くんは、わたしよりも大人だよね」
「あははっ、大人ってなんですか? 僕は、思ったことをハッキリ言ってしまうタイプなんです。……それがいけなかった」
最後にボソッ、と呟いた言葉が聞き取れなかった。
暗い闇に引き込まれるような低い声だったから、聞き返していいのか分からず、わたしは聞き流した。
藤崎くんは、すぐにパッ、と笑顔になる。
「とにかく、その友達ともう一度話してみたら、何か変わるかもしれませんよ! 先輩の本音でね!」
「……そうだね。明日、話してみる。ありがとう」
わたしは、「藤崎くん」とそのまま話を続ける。
「藤崎くんは何かを経験しているから、そんな大人びた言葉を言えるの? 過去に何かあったんだよね?」
そう。ずっと、藤崎くんに聞きたいと思っていたこと。
過去に何かあったんじゃないかと。
いつもわたしの悩んでいることに、完璧な答えを出してくれる。
それはきっと、彼が似たような経験をしているからだと思っていた。
藤崎くんは目を丸くし、少し沈黙が続いたあと答えた。
「……そんなの、ないですよ。先輩の勘違いです。さっきも言ったけど、僕は思ったことをハッキリ言っているだけ」
「うそ、だよ。藤崎くん、前に言ったじゃん。中学時代何かあった……って。それは、藤崎くんを変えてしまうような大きな出来事だったんじゃないの?」
そう問いかけると、藤崎くんはハッ、として口を閉じた。
図星だと言っているかのように。
けれど、いつものようににこっ、と笑みを浮かべた。
「分かった。先輩がそこまで言うなら、教えてあげる。今度の日曜日空けといて」
わたしは、強く頷いた。
「東風先輩、大丈夫ですか?」
部活の最中、ため息を吐いてしまった。
優花や美波のことで、今日一日中頭がいっぱいだから。
藤崎くんが心配そうに、顔を覗き込んでくる。
「うーん、大丈夫ではないかも」
「今日、何かあったんですか?」
「……うん。友達関係でちょっと。わたしは正解を選んだはずなんだけど、その子を傷つけちゃったんだ。難しいなぁって」
まただ。藤崎くんを前にすると、本音がポロリと出てしまう。
不思議な魔法を使っているのだろうか、なんておかしなことを考えていると。
「それは先輩が、正解を選ぼうとしてるからじゃないかな」
「え? わたしが?」
「はい。きっとその友達は、先輩の本音が聞きたかったんだと思うんです。でも先輩は思っていることを言わないで、正解だと思う答えを言った。それが間違いなんじゃない?」
今までモヤモヤしていた気持ちが、一気に晴れた。
そっか。美波は、悩んでいたことを優花ではなく、わたしに相談した。
それは、わたしがどう思うか、気になったから。わたしの本音が聞きたかったんだ。
間違えないように……って思っていたことが裏目にでてしまった。
「もちろん、先輩のその優しさはすごいと思いますよ。人を傷つけないように言葉を選ぶことは、大事ですから。でも、僕だったら相手の本音が聞きたいので」
「……すごいね。やっぱり藤崎くんは、わたしよりも大人だよね」
「あははっ、大人ってなんですか? 僕は、思ったことをハッキリ言ってしまうタイプなんです。……それがいけなかった」
最後にボソッ、と呟いた言葉が聞き取れなかった。
暗い闇に引き込まれるような低い声だったから、聞き返していいのか分からず、わたしは聞き流した。
藤崎くんは、すぐにパッ、と笑顔になる。
「とにかく、その友達ともう一度話してみたら、何か変わるかもしれませんよ! 先輩の本音でね!」
「……そうだね。明日、話してみる。ありがとう」
わたしは、「藤崎くん」とそのまま話を続ける。
「藤崎くんは何かを経験しているから、そんな大人びた言葉を言えるの? 過去に何かあったんだよね?」
そう。ずっと、藤崎くんに聞きたいと思っていたこと。
過去に何かあったんじゃないかと。
いつもわたしの悩んでいることに、完璧な答えを出してくれる。
それはきっと、彼が似たような経験をしているからだと思っていた。
藤崎くんは目を丸くし、少し沈黙が続いたあと答えた。
「……そんなの、ないですよ。先輩の勘違いです。さっきも言ったけど、僕は思ったことをハッキリ言っているだけ」
「うそ、だよ。藤崎くん、前に言ったじゃん。中学時代何かあった……って。それは、藤崎くんを変えてしまうような大きな出来事だったんじゃないの?」
そう問いかけると、藤崎くんはハッ、として口を閉じた。
図星だと言っているかのように。
けれど、いつものようににこっ、と笑みを浮かべた。
「分かった。先輩がそこまで言うなら、教えてあげる。今度の日曜日空けといて」
わたしは、強く頷いた。



