「ねぇ希空、今日部活ある?」

 「え、あるけど……」

 「そっか。部活サボって寄り道しない?」

 放課後、優花にそんな提案をされた。
 わたしは、小説研究部に行くことだけを楽しみに、今日一日を頑張った。
 学校という縛られた時間が終わったのにも関わらず、優花に付き合うなんて疲れてしまう。

 「……ごめん。今日、大事な部活みたいでさ。行かなくちゃいけないんだよね」

 「えー、そうなの? 面倒くさそうだね、小説研究部。テニス部は人数多いから、サボってもバレないんだ」

 「そうなんだ。じゃあごめんね、また明日ね」

 そう言って、わたしは急いで小説研究部の部室に向かった。
 ……早く行きたい。あの場所なら、息ができる。
 そんな居場所があるなんて、わたしは幸せ者だ。

 「こんにちは」

 「希空先輩っ」

 「東風さんこんにちは」

 いつも藤崎くんが挨拶をしてくれるから、その元気な声が聞こえないと心配になってしまう。
 沢田くんと寧音ちゃんに「藤崎くんは?」と尋ねると、ふたりは顔を見合わせた。

 「今日、藤崎くん見かけないなぁと思ったら、休みらしいです」

 「さっき藤崎に連絡したら、風邪引いただけだって。だから心配しないで、今日は各々小説を進めてだそう」

 藤崎くんが休みなんて、珍しい。
 偏見でしかないけれど、あまり風邪とか引かなそうなイメージだったから。
 ……大丈夫かな。
 わたしはエッセイを書きながらも、藤崎くんが心配になってしまい、手が進まなかった。

 「先輩、藤崎くんが心配ですか?」

 「う、うん。だって珍しいし。やっぱり部長がいないと静かだなぁって」

 そう言うと、寧音ちゃんはニヤッとした笑みを浮かべて、わたしの耳にこう囁いた。

 「わたし、藤崎くんと中学一緒だったから、家知ってるんです。先輩に教えましょうか?」

 「……え!? い、いいよ! いきなり行っても藤崎くん、迷惑するだろうし」

 「えー、でも先輩、藤崎くんのことが好きなんでしょう?」

 「好きじゃないよ!!」

 ハッ、とする。
 否定するあまり、思わず声を大きくしてしまった。
 寧音ちゃんに慌てて頭を下げる。

 「ごめんね。そんな言い方をするつもりは、なくて……」

 「いえ、わたしが悪いんです。希空先輩をからかうのが楽しくて、つい限度を超えちゃいましたね。申し訳ありませんでした」

 寧音ちゃんの大人びた言葉に、感心する。
 高校一年生でそんな言葉が出てくるなんて、さすがだと思った。

 「ふたりともどうした。大丈夫?」

 「はい、大丈夫です」

 沢田くんと寧音ちゃんはまた、執筆に専念していた。
 ……あぁ。やってしまった。
 きっと寧音ちゃん、びっくりしただろうな。怖がらせちゃったかもしれない。
 わたしは、人を傷つけてしまったのかもしれない。
 そう思っているうちに、わたしはエッセイを書くことができなくなってしまった。