休日が終わり、月曜日という憂鬱な日が来てしまった。
 休日の後の学校というのは、一番行きたくないと言えるかもしれない。
 でも、わたしにはひとつ、学校に行く理由ができた。
 それは、小説研究部のみんなに会うこと。

 「おはよー、希空」

 「優花、おはよう。美波はまだ来てないの?」

 「風邪引いて休みらしいよー」

 珍しい。美波が風邪を引くなんて。
 『大丈夫?』とメッセージを送りながらも、わたしは内心ホッとしていた。
 仲間はずれにはならないし、わたしの知らない話をされることもないと思ったから。


 昼休憩の時間になると、優花はいつもは真っ先に美波のところへ行くけれど、わたしのところに駆け足で来た。

 「希空、今日弁当? それとも購買のパン?」

 「今日はお弁当だよ。優花は?」

 「あたしも! 教室で一緒に食べよー」

 美波がいるときは、優花と美波が隣同士に座って、わたしだけ向かい合わせの席。
 そしてわたしの知らないアイドルの話を毎日している。その孤独の時間が、とても嫌だった。
 でも今日はそうならない。偶数の人数というのは、とても便利なものだ。

 「ねね、聞いてよ希空ー」

 「ん? なに?」

 「美波のことなんだけどさー」

 優花はそう言いながら、爪に視線を落とす。ネイルが剥がれてきているのが気になっている様子。
 美波の話って何だろうか。そう思いながら、聞き耳を立てる。

 「最近さ、うざくない?」

 「……え?」

 「美波、二個上の中野先輩って人と付き合ってたんだけどさ。また復縁したらしいの。中野先輩テニス部だったから、あたしも知り合いでさ。連絡先交換してることを言ったら、美波めっちゃ怒ったんだよね」

 あぁ、なるほど。つまりこれは愚痴だ。
 わたしが思うことはただひとつ。……どうでもいい。
 これを聞いて、共感してほしいのだろう。そうだよね、優花は間違ってないよ、って。
 優花は悪いことをしていない。美波が嫉妬した。そしてふたりがすれ違っているだけ。

 「わたしは、ふたりとも悪くないと思うよ」

 「えー、美波が悪くない? だってあたし浮気とかしてないんだよ。何もやましいことなんかないって説明したし」

 「……うん、確かに、美波が親友の優花を信じないのもひどいと思う。でもただ嫉妬しちゃっただけなんじゃないかな。もう一度話し合ってみよう」

 わたしはそう言った。できるだけ優しく、傷つかない言葉を選んで。
 けれど優花は何故かふっ、と微笑んだ。

 「あたし、美波のこと別に親友だと思ってないし。話合わせてあげてるだけ」

 「……え」

 「希空も実際そうでしょー? ていうか友達とか親友とか、そんなの中学生までの言葉だよ」

 愕然とした。
 友達じゃないなら、親友じゃないなら、いったい優花と美波の関係はなに?
 いつも仲間はずれにされて、ひとりになっても我慢している、わたしの気持ちは無視?
 ……言い返してやりたかった。でも、唇をぎゅっと強く噛み締めて、閉じた。
 このまま言い返しても、何にもならない。誰も得しない。そう、分かっているから。

 「……そうだね。ごめん。優花は間違ってないよ」

 「だよねー! さすが希空、分かってくれる!」

 わたしは。
 わたしは、親友がいないんだよ。
 いてほしいのに、どこにもいない。話したいのに、もう永遠に話せない。
 親友がいるのにそんなひどい考え方をできる優花を、妬んでしまいそう。
 ……結依。会いたいよ。
 そう思いながら食べるサンドイッチの味は、全く分からなかった。