きみと見つけた物語

 「疲れましたねー」

 「皆さんごめんなさい、わたしのせいで今日は一日中付き合わせちゃって」

 「全然いいよ! 椎橋さん、何かヒントは掴めた?」

 「うん、おかげさまで上手く書けそう」

 藤崎くんと寧音ちゃんの会話を聞きながら、わたしは頭のなかの整理がついていなかった。
 『今度、ふたりでヒントを掴みに出かけませんか?」』
 その場の勢いに任せて頷いてしまったけれど、あれはデートの誘い、だろうか。
 もしそうだとしたら、藤崎くんはどうして、わたしなんかを誘ったんだろう……。

 「東風さん、大丈夫?」

 「あっ、沢田くん」

 「何か上の空だったから」

 相談したいけれど、藤崎くんとのことを沢田くんに言っていいのかも分からない。
 わたしは笑顔を見せ、首を横に振った。

 「大丈夫だよ、ありがとう。今日は楽しかったね。友達と遊ぶの久しぶりだったから」

 「そうなのか。俺、初めて」

 「えっ、そうなの?」

 意外だ。
 確かに沢田くんはみんなで和気あいあいというイメージではないけれど、友達と遊ぶのも初めてだったなんて。

 「ていうかまず、友達なんてできたことない」

 「そう、なんだ」

 「うん。だから嬉しいんだよな、俺。小説研究部に誘ってもらえて。こうやって友達ができて」

 沢田くんはいつもポーカーフェイスのイメージだった。
 でも今は、笑顔が顔に出ている。それだけですごく変わったんだなと思った。
 わたしは、変われていない。部活に入る前も、入った今も。
 そんな自分が、大嫌い。

 「東風さんも、あんまり考えすぎると良くないよ。そういえば小説の案は決まったの?」

 「うーん、今のところ、何を書いたらいいのか分からないんだよね」

 「じゃあ、先輩の経験した思いを、全て書いちゃえばいいじゃないですか!」

 突然、藤崎くんがそう言った。
 全身が固まったように動かない。驚きで頭がいっぱいだ。

 「わたしの経験した思いを、全部……?」

 「はい。ここで言っていいのか分からないけど、先輩、いろいろあったんでしょう。そのときの思いも、気持ちも、感情も。全てを小説にぶつければいい。そしたらきっと、読者の心に刺さると思いますよ」

 藤崎くんは、わたしよりもずっとすごい。たぶん、誰よりも。
 そんなこと、思いつきもしなかった。
 わたしが書いたエッセイが、誰かのためになるのなら。
 やりたい。そんな物語を、創りたい。

 「藤崎、それいいと思う」

 「わたしもそう思う。希空先輩の経験談、興味あるし」

 「だって! 東風先輩、どうですか?」

 「……うん、すごくいい。わたしにぴったりな気がする。ありがとう、藤崎くん」

 いつだって困ったときに助けてくれるのは、藤崎くんだ。
 わたしの思いが、エッセイとして読者に伝わるように。
 そんな物語を書けたらいいなと、心から思った。