はぁ、とため息を吐いてしまう。
 沢田くんも、寧音ちゃんも。ふたりともどこか本音を隠しているというか、過去に何かあったというか。そんな気がする。
 わたしは、本音を言うことができない。大切な人を失うことが、すごく怖いから。
 ふたりはどうなんだろう。何があったのかな……。

 「ため息吐いたら幸せ逃げますよ?」

 「ふ、藤崎くん!」

 藤崎くんが、わたしの顔を覗き込む。
 藤崎くんの顔が目の前にあるという状況に、びっくりしてしまう。

 「また何かあったんですか? 親友のこと? おばあさんのこと?」

 「ううん、違う違う。わたしのことじゃなくて、沢田くんと寧音ちゃんのこと」

 「え、ふたり、何かあったんですか?」

 藤崎くんは本気で心配している様子だ。
 慌てて首を横に振って否定する。

 「ふたりと話して思ったんだけど、沢田くんも寧音ちゃんも、何か隠している気がするんだよね。わたしと同じ、っていうか……」

 上手く言葉にできないのが悔しい。
 だけど藤崎くんはわたしの言っていることを理解してくれたようだった。

 「やっぱり先輩もそう思う?」

 「え……」

 「僕もそう思ったんです。だから小説研究部に誘った」

 そういえば確かに、藤崎くんはどうしてふたりを小説研究部に誘ったのだろうか。
 沢田くんとは学年が違うから接点もないだろうし、寧音ちゃんは中学校が一緒って言ってたけど、特別仲が良いというわけでもない。

 「あの日……東風先輩を誘った日。偶然、帰りに沢田先輩を見かけたんです。熱心にノートを読んでいて、あぁ勉強してるんだなって分かって。でもどこか悔しそうな顔をしていて」

 「……うん」

 「次の日の朝、隣のクラスの椎橋さんを見たときに思ったんです。中学校のときと雰囲気が違うなって。僕ら二年生のときに同じクラスだったんですけど。なんか、感情を隠してる感じがしました」

 それで藤崎くんは、ふたりを誘ったという。
 やっぱりわたしだけじゃなかったんだ。ふたりに何か秘密があるのではないかと思った人は。
 藤崎くんがそう思ったなら、本当にそうなのかもしれない。

 「でもわたし、沢田くんとも寧音ちゃんとも、特別仲良いってわけじゃないし……打ち明けてくれないよね、きっと」

 「え、そうですか? 沢田先輩、東風先輩と仲良くしたそうに見えたけど……。椎橋さんも、先輩のこと名前で呼んでるし。結構打ち解けてるんじゃない?」

 「そうかなぁ。わたし、人と必要以上に関わりたくないってずっと思ってたし、感じ悪いなぁって思われてるんじゃないかな」

 それが、わたしの気持ち。
 本当はみんなともっと仲良くしたいけれど、大切だと思ってしまったら、もう元には戻れない。
 そして失ったときの絶望感が、きっと強くなってしまう。
 だから、怖いんだ。

 「まぁ、先輩は先輩なりに、頑張ってくださいね! 僕は部長として、文化祭大作戦を成功させなきゃ」

 「あっ……そうだ。わたしまだ、小説書けてないんだよね」

 エッセイにすると言ったけれど、実際どんなことを書けばいいのかさっぱり分からなくて、まだ一文字も手を付けていない。
 すると藤崎くんはにこっ、と笑ってこう言った。

 「実は僕もアイデア決まってなくて。今度、ふたりでヒントを掴みに出かけませんか?」