「うわぁーっ、本がいっぱいある!」

 寧音ちゃんが書店を見て、目を輝かせる。
 ショッピングモールの店のなかで、書店が一番大きいと思う。
 ……寧音ちゃんって意外と、本が好きなんだなぁ。

 「希空先輩は、小説と漫画、どちらが好きですか?」

 「え、わたし? うーん、小説かな。漫画はあまり読まないから」

 「わたしも、小説です。漫画も好きですけど、やっぱりあの世界観に引き込まれる感じが、小説にしかない魅力ですから」

 確かに、小説を読んでいると、自分が主人公になった気分になる。
 そしてその物語が進んでいくたびに、感情移入ができる。
 主人公が泣いたらわたしも泣いて、喜んでいたらわたしも喜ぶ。そんなふうに、気持ちがひとつになる感覚がある。だから、わたしも小説は好き。
 すると、寧音ちゃんは「ふふっ」と微笑んだ。

 「先輩って、何だか時々不思議ですよね」

 「えっ?」

 「何を考えているか分からないと思ったら、急に笑顔になって、話を合わせている。……わたしもそうだから、分かっちゃうんです」

 えへへ、と笑う寧音ちゃん。
 見事に、わたしの性格を全て当てられてしまっている。
 寧音ちゃんにも何か隠していることがある。直感だけど、そう思った。

 「……わたしは、過去にいろいろあって、こうなっちゃったんだ。寧音ちゃんももしかして、そうなの?」

 そう言うと、寧音ちゃんの瞳から、光が消えた気がした。

 「……どうでしょうか。わたしはたぶん、そんな大きな出来事ではなかったと思います。ただ確かに、わたしを変えた出来事ではあったかもしれません」

 分かるような、分からないような。
 複雑な言葉で寧音ちゃんはそう言った。
 寧音ちゃんも、わたしと同じで本音を隠しているような、そんな気がした。

 「わたしはいいんです! それより先輩。藤崎くんのこと、好きですよね?」

 「……え!? わたしが、藤崎くんのことを!? ち、違うよ!」

 「ふふっ、動揺してますね」

 「本当に違うの!」

 必死に否定したけれど、寧音ちゃんは信じてくれない。
 どうしてわたしが藤崎くんのことを好きだということになっているのだろうか……。
 恋愛なんて、まだ全然分からないのに。

 「冗談です、すみません。何か恋愛のアイデアが掴めるかなぁと思いまして」

 「な、なーんだ、そういうこと。うーん、難しいけど、寧音ちゃんは人を好きになったこととかないの?」

 そう言うと、また寧音ちゃんの瞳から光が消えた気がした。
 けれど、パッ、とすぐに笑顔になる。

 「ないですよ! 残念ですけど」

 「……そっか。じゃあ、何かヒントが掴めるといいね」

 「はいっ。ありがとうございます、希空先輩」

 いつもの明るくてかわいい寧音ちゃんを見て、ホッ、と安心する。
 ……寧音ちゃんもやっぱり、過去に何かあったのかもしれない。
 だけど弱虫のわたしには、人の悩み相談に乗るなんて、到底できないことだった。