「今日は楽しみましょうね!」

 「わたし、先輩とお出かけなんてしたことがないから、緊張します」

 「俺も後輩と出かけたことなんてないし」

 「椎橋さんも沢田先輩も、そんな堅苦しくならないで! ね、東風先輩!」

 「う、うん」

 わたしはいま、小説研究部のみんなで出掛けている。
 事の発端は、寧音ちゃんだった。
 文化祭で出す本のジャンルはエッセイだと決めたけれど、なかなかアイデアが浮かばないとのこと。
 みんなで遊びに出掛ければ、何かヒントが掴めるのではないかと藤崎くんが言った。
 友達と遊ぶなんて、いつぶりだろう。……結依が亡くなる前に映画を観に行ったのが、最後かもしれない。
 わたしは首をブンブンと首を横に振る。いま結依のことを思い出して悲しくなっても仕方がない。
 今日はみんなで遊ぶというより、小説のアイデアを掴みに来たのだから。

 「よーし、じゃあどこ行きます?」

 「ショッピングモールとかどう?」

 「お、いいねー! 椎橋さん、ナイスアイデア! じゃあ行きましょう」

 わたしたちは電車を乗り継ぎ、近くのショッピングモールへ向かった。
 懐かしい。昔、何度も結依とここへ来た。
 お揃いの物を買ったり、食べたり。でも、結依とまた来ることはもうない。
 そう思った途端、胸がぎゅっと締め付けられた。

 「東風さん、大丈夫?」

 「えっ?」

 「何か、すごく落ち込んでる感じだったから」

 沢田くんに気づかれて、わたしは動揺してしまう。
 藤崎くんもそうだけど、わたしってそんなに感情が顔に出やすいのだろうか。
 みんなに心配させてしまって、申し訳ない。そう思いながら、笑みを浮かべた。

 「うん、ごめんね、大丈夫だよ。沢田くん、どうしてそう思ったの?」

 「……何となく。俺もそういう顔してるって言われたことあるから」

 「そう、なの?」

 意外だ。
 沢田くんのことだから、もしかして、勉強のことで何か言われたのかな。
 沢田くんは頷きながら口を開く。

 「東風さんは、無理してる感じだね」

 「……うん。そうかも。わたし、本音を言うことができないんだ」

 「そっか。俺も」

 そう言いながら、沢田くんはスタスタと歩いていってしまった。
 沢田くんもわたしと同じで、本音を言うことができない。それはどうしてだろうか。
 沢田くんの眼鏡の奥にある透き通る瞳を見たら、そこに隠されている秘密を知りたくなった。