きみと見つけた物語

 ゴールデンウィークが終わり、久しぶりの学校。
 ずっと家にいるのもやることがなくて暇だったけれど、学校に行くというのもそれはそれで苦痛。
 久しぶりの学校だからか、どこか緊張気味になる。深呼吸をして、教室に足を踏み入れた。

 「あ、おはよー、希空」

 「久しぶりー」

 「おはよ、優花、美波」

 すると優花の髪型が、驚くほど変わっていた。
 腰くらいまである長い髪をバッサリ切って、ボブにしていたから。
 こういうのはきっと、気づいてあげるのが正解だ。
 誰にも何も言われないでいるのは、悲しいから。

 「優花、髪切ったんだね。似合ってるよ」

 「え、そうなのー! ありがとー。希空も髪綺麗だよねー」

 わたしの髪は、背中まである。髪を切る前の優花ほど、長くはないけれど。
 髪が綺麗だと言われたことは初めてだ。

 「そうかな? ありがとう」

 「いいなー。ウチも早く髪伸びないかなー」

 「確かに美波、ボブだもんねー。でもあたしとお揃いだよ?」

 「え、確かに! ウケる!」

 わたしの話ではなく、今度はふたりで話を始めた。
 いつもそうだから、もう慣れてしまっている。
 でもわたしは、このほんの少しの仲間はずれにされている時間が、すごく息苦しかった。
 トイレに行こうと思ったそのとき。教室の入り口に、藤崎くんが見えた。

 「東風さーん、一年生の子が呼んでるよ」

 クラスメイトにそう呼ばれたとき、胸がドキッとした。
 藤崎くんが待っていたのは、わたしだったのか。
 他の人でもなく、わたしのために、教室まで来てくれた。
 嬉しくて、わたしは藤崎くんのもとへ行った。

 「藤崎くん!」

 「先輩! 突然来ちゃってごめんなさい。ちょっと部活のことで言い忘れていたことがあって」

 「大丈夫だよ。どうしたの?」

 あれ、先ほどの感情は、どこに行ったんだろう。息苦しいという、あの思いは。
 藤崎くんと話していたら、いつの間にか自分のなかから無くなっていた。

 「文化祭で出す本の締め切りは、六月末にします! それまでに完成させてください」

 「うん、分かった。わざわざ来てくれてありがとう」

 「仕上がったら僕に見せてくださいね」

 「……うん、分かった」

 「じゃあまた、放課後の部活のときに!」

 明るく、ひらひらと手を振って藤崎くんは帰っていった。
 ……わたし、どうして藤崎くんと話すだけで心が軽くなるんだろう。
 そんな疑問がずっと、心に残っていた。