きみと見つけた物語

 「じゃあ、今日の部活動を始めます!」

 藤崎くんが挨拶をし、パチパチと小さく拍手が起こる。
 こうして見ると、藤崎くんって背が高くスタイルが良くて、かっこいいかもしれない。
 周りからモテモテなんだろうなぁと素直に思った。

 「今日の部活内容は、目標について!」

 「目標?」

 「はい! どんなことを目標にして活動していくかを話し合います。まぁ、実は僕、考えてきてるんですよねー」

 藤崎くんは胸を張りながら、チョークで黒板に何かを書き込む。
 部長として張り切っていてすごいなと思った。

 「名付けて! 文化祭大作戦!」

 「文化祭、大作戦……?」

 わたしたちは一斉に顔を見合わせる。
 名前で想像ついてしまう。文化祭で、何かをやろうとしているのだろう。

 「文化祭って、いろいろな部活が何かやるんですよね? だから小説研究部も活動しようと思いまして!」

 「でも、今から準備するには早くないか?」

 「沢田先輩は分かってないですねぇ。吹奏楽部とか美術部とか、もう準備してるんです! つまり、僕らも今からやらないと負けてしまいます!」

 いや、勝ち負けとかないでしょ。
 と、心のなかでわたしはツッコミを入れる。もちろん口に出す勇気はないけれど。
 すると寧音ちゃんが「はい」と言いながら手を挙げた。

 「はい、椎橋さん!」

 「あの、質問です。具体的には何をするの?」

 「その質問待ってましたー!」

 そう言いながら、藤崎くんは一冊の本を取り出す。

 「その文化祭で、僕たちは本を出そうと思います!」

 「え……本!?」

 「本といっても、短いパンフレットみたいなものです。ジャンルはエッセイにしようと思ってるけど、何を書くのかは自由! 文化祭は七月だから、あと四ヵ月足らずで仕上げなきゃいけないけどね」

 わたし、物語なんて書いたことない。
 本をたくさん読んでいるわけでもないし、書ける気がしない。
 わたしはそっと手を挙げた。

 「あ、あの」

 「はい、東風先輩!」

 「それ、強制参加? わたし、その……物語なんて書いたことないし、できないよ」

 「やったこともないのにできないって決めつけちゃだめですよ! 僕たち三人もやったことないし。ね!」

 うっ、と喉の奥に言葉が詰まる。
 そう言われてしまっては、断るに断れない。
 わたしは渋々頷いた。

 「質問です」

 「はい、沢田先輩!」

 「文字数の制限は?」

 「そうですね……千文字くらいで!」

 藤崎くんはそう言って、手をパン、と鳴らす。

 「じゃあこれから小説研究部は、文化祭に向かって活動していくことにしまーす!」

 嫌なことを断れないのは、わたしの悪い癖。
 だけど誰も傷つかないよりかはいい。そう思うことにした。