転校初日に、あーあ、クラス中に嫌われちゃったなって物思いにふけろうと思って屋上に行ってみたら。
『やっぱここは鼻血? いや待って、小学生男子は虫も好きだから』
さっき教室で見た〝姫〟って呼ばれてた女子が小学生男子が好きそうな単語をぶつぶつ言いながらなんか書いてて。
『んー、でも虫は私が好きじゃないしー』
その表情が楽しそうで、なんかいいなって思った。



「だけどその子は教室では全然楽しそうじゃなくて。それで、その子のことも笑わせたいなって思って文化祭に出ようと思ったんだ」
それで、思い切って私がいるかもしれない屋上で練習しようとして、あの日の『なんでやねんっ』につながったらしい。
まさか私が赤井コーヒーだとは思っていなかったそうだ。
と、いうことは。
「真山って、転校初日から私のこと好きってこと?」
「まあ、そうなるね」
なんでもないって顔で言われて、なんだか負けたって気持ちになる。
「それに、文化祭が終わっても八百さんに師匠でいて欲しいなって思ってた」
だからギャグのクオリティをだんだん下げていたと言う。「真っ直ぐじゃない姑息な手だって使うよ」なんて言っているけれど…。
「……クオリティは実力でしょ」
ツッコまずにはいられない。
『あのー……』
ひとしきり好き勝手話したところで、司会の生徒に声をかけられハッとする。
「ステージの上だった!」
マイクをオフにしていたとはいえ、前の方の人には聞こえていたかもしれない。
だってなんだか前の方のお客さんの顔がニヤニヤしている。
「どうしよう、超恥ずかしい。……っていうか! 私が赤井コーヒーだってことも話しちゃった! バレてなかったのに」
「まあいいじゃん」
真山が、初めて見る嬉しそうな顔で言う。

「みんな笑ってるし」

こんなとき、コーヒーくんだったら、なんて言うかな。

fin.