一週間後。
文化祭も数日後に迫った頃。
——『わかった』
そんな言葉を簡単に信じた私がバカだった。
「どういうこと⁉︎ バラすなんて最っ低!」
「俺じゃないって」
昼休み、私は屋上で真山に詰め寄っていた。

今日登校した瞬間から、クラスの様子がどこかおかしかった。
いつもは耳に入ってくるような噂話がヒソヒソと小さな声で全く聞こえてこない。
だけどみんなの視線は私に集中していて「クスクス」なんて笑い声も耳に入った。
その時点で、なんとなくわかってしまった。中学二年の時と同じ空気だったから。
「八百さんのお父さんが小比類沢マイクだって本当?」
勇気ってやつを勘違いした出しゃばりな男子が聞いてきた。
咄嗟にどう答えていいのかわからなくて一拍分無言の間を作ったら「やっぱりそうなんだ!」って嬉しそうに言われて、クラス中からざわざわと笑い声や「マジー?」「芸能人っていってもねー」なんて声が聞こえてきた。
そこからは想像通りの世界が広がっていった。
今までは噂話とセットだった羨望のまなざしが、嘲笑や好奇の目に変わった。

「こんなにすぐにバラすなんて」
「だから俺じゃないって」
「だったら誰がバラすわけ? 他に知ってる人なんていないのに」
「それは……わからないけど」
ほらね。やっぱり真山なんでしょ。
「教えなければ良かった……」
声がかすれた。
だけど、こんな嘘つき野郎の前では絶対に泣きたくない。
「でも俺がいるって言ったじゃん」
「は?」
「中学の時とは違って、俺は八百さんの味方」
バラしておいてよく言うって、怒りが湧いてくる。
「なんなら文化祭で一緒にステージに立つとか? 師弟コンビとして」
「……バラしたのも許せないけど、謝らないのはもっと最低だと思う」
「だから俺じゃないって言ってんじゃん」
あくまでも認めない気のようだ。
「だいたい、なんでマイク師匠の子どもだってことが恥ずかしいことなんだよ」
「は? からかわれるからに決まってるでしょ!」
「俺はマイク師匠を尊敬してる。あの人の笑いは本来は誰も傷つけないはずだから」
真山はやっぱり真剣な顔つきで言ってのける。
だけど、娘の私は傷ついている。
「本当は八百さんだってお父さんのこと尊敬してるんじゃないの? じゃなかったらコーヒーくんは——」
「知ったようなこと言わないで!」
私が許せないのは、平気で裏切った真山なんだから。
「もう私に関わらないで!」
そう言って、怒りの勢いに任せて屋上を飛び出した。

信じてたから教えたのに。
—— 『俺は、姫をやってる八百さんより、今こうして目の前にいる素の八百さんの方が好き』
あんなの嘘だったんだ。

最低!
最低!
最低!

ギャグの稽古はその日が最後になった。
文化祭のステージだって、きっと見には行かない。