「うそ……」

 翌日。
 確認しに行った俺は、思わずそう零していた。
 ノートの向きが、変わっていたのだ。
 予想した通り、元あった向きに。

 ただ、検めた中身には、変化がない。
 幽霊? とだけ短く質問した俺の文字が最後だ。

 それでも、読まれた、最低でも触られたことは確かだ。
 教師か警備員か、或いは……幽霊か。
 幽霊――その可能性も、未だ完全には捨てきれない。
 昨日から今日に掛けて、俺が知っているだけでも二日続けて、この教室だけ施錠の手が入っていないなんてことは考え辛い。
 授業時間中、放課後、教員が用事で開けたのであれば、同じように二日続けて施錠されていないというのはおかしい。生徒であれば尚のこと。いやそれ以前に、用があって開けていたのであれば、それらしい痕跡、形跡があっても不思議はない。
 それが、昨日に続き今日も、ノートの向き以外、机も椅子も、カーテンさえも、触られたような形跡はない。

「幽、霊……」

 では、ないと思う。思いたい。
 何を馬鹿なことをやっているんだ――昨日までと同じようにそう飲み込んでしまえれば、或いは今日ここに来さえしなければ、気分は幾らも楽だったろうに。
 気になることが多過ぎて、とても見過ごすことが出来ない。
 これが誰の仕業であるか、ともすればただの悪戯であるのか、証明したがっているようだ。

「……明日、明日で最後にしよう」

 追記さえなければ、それに意味はないということには一応なる。納得は出来る。
 だから明日で、本当に最後にしよう。
 なければ、それで飲み込めるのだから。